こども性暴力防止法の施行(2026年6月)

こども性暴力防止法とは?

子どもに関わる事業者が確認しておきたいポイント

令和8年(2026年)12月25日から、こども性暴力防止法が施行されます。

正式名称は、 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律 です。

報道などでは、「日本版DBS」と呼ばれることもあります。

この法律は、簡単にいうと、 子どもに教育・保育・指導などを行う事業者に対し、子どもへの性暴力を防ぐための体制整備を求める法律 です。

単に「性犯罪歴を確認する制度」というだけではありません。 子どもと接する現場で、性暴力が起きにくい仕組みを作ることが重要になります。


この記事のポイント

  • こども性暴力防止法は、令和8年(2026年)12月25日に施行されます。
  • 学校、幼稚園、保育所、認定こども園、児童福祉施設などは、法律上の義務対象となります。
  • 学習塾、家庭教師、スポーツクラブ、習い事、認可外保育施設、ベビーシッターなどの民間事業者も、認定制度との関係で対応が必要となる場合があります。
  • 犯罪事実確認の対象は、一般的な意味での「性犯罪歴等」すべてではなく、法律上の「特定性犯罪事実該当者」に該当するかどうかです。
  • 本記事では、分かりやすさのために「子どもと接する業務」「特定性犯罪前科」などの表現を用いることがありますが、実際に犯罪事実確認の対象となるかどうかは、法令・ガイドライン上の要件に基づいて判断する必要があります。
  • 採用時の誓約書、内定通知書、就業規則、情報管理規程などを事前に整備することが重要です。
  • 特定性犯罪事実該当者に該当することが確認された場合でも、直ちに解雇できるとは限らず、労働法上の検討が必要です。
  • 在職中に児童対象性暴力等の疑いが生じた場合は、まず子どもとの接触を止め、安全確保と事実確認を行う必要があります。

1 なぜ、この法律が作られたのか

学校、保育施設、学習塾、スポーツ指導、習い事などでは、子どもと大人が継続的に関わります。

特に、次のような場面では、子どもが被害を訴えにくく、問題が見えにくいことがあります。

  • 指導者と子どもが1対1になる
  • 密室で指導や面談をする
  • 継続的な指導関係がある
  • 子どもが指導者に逆らいにくい
  • SNSや個人の連絡先でやり取りをする
  • 送迎、宿泊、遠征などがある

このような関係では、大人側に強い立場が生じやすく、子どもが被害を受けても周囲に相談しにくい場合があります。

そこで、子どもに関わる事業者に対し、性暴力を防ぐための措置を求める制度が設けられました。


2 施行時期

こども性暴力防止法は、 令和8年(2026年)12月25日 に施行されます。

令和8年12月25日以降、対象となる事業者では、法律に基づく対応が必要になります。

ただし、実務上は、施行日になってから準備を始めるのでは間に合わない可能性があります。 対象となる事業者は、あらかじめ、自社の業務、従業員の配置、就業規則、相談体制、個人情報管理体制などを確認しておくことが重要です。

なお、施行日時点ですでに在職している従事者(現職者)についても、確認が必要です。 公表資料によれば、確認の時期は、対象の区分に応じて次のとおりとされています。

  • 義務対象事業の現職者 施行後3年以内に確認
  • 認定事業の現職者 認定を受けてから1年以内に確認
  • 新たに雇い入れ・配置転換する者 その都度、就業前に確認
  • 一度確認を受けた者 確認日の翌日から5年を経過する日の属する年度の末日までに再確認

したがって、施行日以降に採用する者だけでなく、現に子どもと接している従業員についても、計画的に確認を進める必要があります。


3 どのような事業者が関係するのか

この法律は、すべての企業に一律に適用されるものではありません。

主に、子どもに対して教育・保育・指導・預かりなどを行う事業者が関係します。

大きく分けると、次の2つがあります。

  1. 法律上、対応が義務付けられる事業者
  2. 認定制度との関係で対応が必要となる民間事業者

また、本記事では分かりやすさのために「子どもと接する業務」という表現を用いることがあります。
もっとも、犯罪事実確認の対象となる業務は、単に子どもと接するすべての業務ではありません。

実際に犯罪事実確認の対象となるかどうかは、法令・ガイドライン上の要件に基づき、事業の種類、業務内容、子どもとの関わり方、勤務実態等を踏まえて確認する必要があります。
一般に、子どもに対する支配性、継続性、閉鎖性が問題となりやすい業務については、特に注意が必要です。


4 法律上の義務対象となる事業者

まず、法律上、対応が義務付けられる事業者があります。

代表例としては、次のようなものがあります。

  • 学校
  • 幼稚園
  • 保育所
  • 認定こども園
  • 児童福祉施設
  • 児童発達支援
  • 放課後等デイサービス
  • 障害児入所施設
  • その他、子どもに教育・保育・福祉サービスを提供する一定の事業者

これらの事業者では、法律に基づき、子どもへの性暴力を防ぐための措置を講じる必要があります。

対象になるかどうかは、事業の種類や許認可、実際の業務内容によって判断する必要があります。 「子どもと関わる事業だから必ず対象になる」とも、「学校や保育所以外は関係ない」ともいえません。


5 民間事業者も関係する場合がある

学習塾、スポーツクラブ、習い事、認可外保育施設などの民間事業者については、国の認定制度が設けられています。

代表的には、次のような業種が関係し得ます。

  • 学習塾
  • 個別指導塾
  • 家庭教師
  • 認可外保育施設
  • ベビーシッター
  • スポーツクラブ
  • スイミングスクール
  • ダンス教室
  • 音楽教室
  • プログラミング教室
  • 英会話教室
  • 体操教室
  • 芸能・モデル・演劇などの指導事業
  • 子ども向けイベント、キャンプ、体験学習事業

これらの事業者については、事業内容によって、制度上の認定対象となる可能性があります。

認定を受ける場合には、法律に基づく性暴力防止措置を講じることが求められます。 また、認定を受けない場合であっても、子どもを預かる、指導する、1対1で接するなどの業務がある場合には、企業の安全配慮やリスク管理の観点から、同様の対策を検討することが望ましいといえます。


6 法律上の「性犯罪歴等」とは何か

本記事では、分かりやすさのために「性犯罪歴等」という表現を用いることがあります。

ただし、こども性暴力防止法上、犯罪事実確認の対象となるのは、一般的な意味での「性犯罪に関する過去の事情」すべてではありません。

法律上、重要なのは、対象者が 「特定性犯罪事実該当者」 に該当するかどうかです。

「特定性犯罪事実該当者」とは、簡単にいうと、法律で定められた一定の性犯罪(特定性犯罪)について、有罪判決が確定し、拘禁刑の実刑、拘禁刑の執行猶予、又は罰金刑に関する法律上の確認対象期間内にある人をいいます。

対象となる犯罪は、法律上「特定性犯罪」と呼ばれます。

代表的には、次のような犯罪が含まれます。

  • 不同意わいせつ
  • 不同意性交等
  • 監護者わいせつ・監護者性交等
  • 児童買春
  • 児童ポルノの製造・提供等
  • 性的姿態等撮影罪
  • 児童に淫行をさせる行為等
  • 条例上の痴漢、盗撮、のぞき、児童との性交・わいせつ行為等のうち、政令で定めるもの

もっとも、これらに関係する事情があれば、すべて確認対象になるわけではありません。

犯罪事実確認の対象となるのは、基本的に、法律で定められた「特定性犯罪」について、刑を言い渡す裁判が確定した場合です。

そのため、次のようなものは、少なくとも犯罪事実確認の対象そのものとは区別する必要があります。

事項 犯罪事実確認の対象か
逮捕歴 それだけでは対象ではありません
書類送検歴 それだけでは対象ではありません
不起訴処分 犯罪事実確認の対象そのものではありません。ただし、事案の内容によっては、安全管理上の情報として別途検討が必要となる場合があります
噂・相談・通報情報 犯罪事実確認の対象ではありません
社内での苦情・懲戒歴 犯罪事実確認の対象ではありません
性的言動に関する過去のトラブル 犯罪事実確認の対象とは別に検討すべき情報です

ただし、犯罪事実確認の対象ではない情報であっても、子どもの安全確保の観点から、調査、配置上の配慮、1対1接触の制限、相談体制の整備などが必要となる場合があります。

したがって、記事や社内文書では、単に「性犯罪歴等」とだけ書くのではなく、必要に応じて、 「特定性犯罪前科」 又は 「こども性暴力防止法にいう特定性犯罪事実該当者に該当すること」 という表現を用いると、法律上の意味が明確になります。

なお、本記事では説明の便宜上、「特定性犯罪前科」という表現を用いることがありますが、これは法律上の正式な用語ではありません。
法律上は、対象者が「特定性犯罪事実該当者」に該当するかどうかが問題になります。


7 「特定性犯罪事実該当者」に該当する期間

特定性犯罪について有罪判決が確定しても、永久に犯罪事実確認の対象になるわけではありません。

法律上、確認対象となる期間が定められています。

概要は次のとおりです。

刑の内容 確認対象となる期間の概要
拘禁刑の実刑 刑の執行終了等から20年以内
拘禁刑の執行猶予 裁判確定日から10年以内
罰金刑 刑の執行終了等から10年以内

※ 執行猶予の言渡しが取り消された場合には、拘禁刑の実刑を受けた者と同様に扱われ、確認対象となる期間も実刑の場合(刑の執行終了等から20年以内)に準じて判断されます。

したがって、「過去に性犯罪に関係する事情がある」というだけで、すべてが犯罪事実確認の対象になるわけではありません。

実務上は、法律上の確認対象である「特定性犯罪事実該当者」に該当するかどうかと、それ以外の安全管理上の情報を区別して考える必要があります。


8 この法律で求められる主な対応

こども性暴力防止法で重要になる対応は、大きく分けると次の4つです。

① 子どもへの性暴力を防ぐための安全確保措置

事業者は、子どもへの性暴力を防ぐため、現場の体制を整える必要があります。

例えば、次のような対応が考えられます。

  • 密室で1対1にしない
  • 個別指導や面談のルールを作る
  • 教室、相談室、更衣室、送迎時の管理方法を決める
  • 子どもや保護者が相談しやすい窓口を設ける
  • 職員に対する研修を行う
  • 問題が起きた場合の初動対応を決めておく

重要なのは、単に「問題を起こさないよう注意する」という精神論ではなく、問題が起きにくい仕組みを作ることです。

② 犯罪事実確認

犯罪事実確認は、事業者が独自に前科を調べる制度ではありません。 公表資料によれば、手続の流れは、おおむね次のとおりとされています。

  1. 事業者が、対象となる従事者について、こども家庭庁に犯罪事実確認を申請する
  2. 本人が、自らの戸籍情報等をこども家庭庁に提出する(戸籍情報は事業者には渡りません)
  3. こども家庭庁が、法務大臣に対し、特定性犯罪事実該当者に該当するかを照会する
  4. 確認結果を記載した「犯罪事実確認書」が、事業者に交付される

該当する事実がある場合には、まず本人に事前に通知され、本人は内容の訂正等を申し出ることができるとされています。

いわゆる「日本版DBS」と呼ばれる部分です。

ただし、誤解してはいけないのは、これは単に「前科を調べる制度」ではないということです。

事業者としては、誰が対象となる従事者なのか、どのタイミングで確認が必要なのか、確認した情報をどのように管理するのかを整理する必要があります。

また、犯罪の経歴に関する情報は、本人にとって非常に重大な個人情報です。 取り扱いを誤ると、プライバシー侵害や個人情報保護上の問題が生じるおそれがあります。

③ 児童対象性暴力等のおそれがある場合の防止措置

犯罪事実確認の結果や相談・通報などにより、子どもへの性暴力のおそれがあると判断される場合には、事業者は防止措置を検討する必要があります。

例えば、次のような対応が考えられます。

  • 子どもと接する業務から外す
  • 1対1で接する業務をさせない
  • 配置転換を行う
  • 業務範囲を限定する
  • 必要に応じて懲戒処分を検討する
  • 警察、行政、専門機関への相談を検討する

もっとも、特定性犯罪前科が確認された場合でも、常に直ちに解雇できるとは限りません。 労働法上の制約、就業規則の定め、業務内容、配置可能性、本人への説明、手続の相当性などを慎重に検討する必要があります。

④ 情報管理

犯罪事実確認の結果や犯罪歴に関する情報は、極めて慎重に管理する必要があります。

事業者は、少なくとも次のような点を検討すべきです。

  • 情報を扱う担当者を限定する
  • 閲覧できる人を必要最小限にする
  • 紙・データの保管方法を決める
  • 保存期間や廃棄・消去の方法は、法令及びガイドラインが定める方法に従う
  • 目的外利用を禁止する
  • 社内で不用意に共有しない
  • 漏えいした場合の対応手順を決める

この情報が社内外に漏えいすると、本人との労務トラブルだけでなく、企業の信用問題にもなり得ます。


9 特に注意が必要な業務

次のような業務がある事業者は、特に注意が必要です。

  • 子どもと1対1になる個別指導
  • 個室での面談
  • 更衣、トイレ、入浴、宿泊を伴う活動
  • 自宅訪問型のサービス
  • 送迎
  • 合宿、遠征、キャンプ
  • SNSや個人連絡先を使ったやり取り
  • アルバイト講師や外部講師が子どもと直接接する業務
  • 業務委託先が子どもと接する業務

正社員だけでなく、アルバイト、パート、契約社員、業務委託、外部講師、ボランティアなども含めて、実際に子どもと接する人を洗い出す必要があります。


10 事業者が今から確認すべきチェックリスト

対象となる可能性がある事業者は、次の点を確認しておくとよいでしょう。

自社の事業内容

  • 子どもを対象とするサービスがあるか
  • 教育、保育、指導、預かり、送迎、宿泊を伴う業務があるか
  • 対象となる事業に該当する可能性があるか
  • 認定制度の利用を検討する必要があるか

従事者の範囲

  • 子どもと接する従業員は誰か
  • アルバイト、パート、契約社員も含まれているか
  • 業務委託先や外部講師が子どもと接しているか
  • 採用時、配置転換時、在職中の確認手順を整理しているか

現場ルール

  • 密室で1対1にしないルールがあるか
  • 個別指導や面談のルールがあるか
  • 更衣室、トイレ、送迎、宿泊時のルールがあるか
  • SNSや個人LINEでの連絡を制限しているか
  • 保護者との連絡方法を統一しているか

就業規則・服務規律

  • 子どもへの性的言動を禁止しているか
  • 子どもとの私的連絡を制限しているか
  • 相談・通報・調査への協力義務を定めているか
  • 配置転換や業務変更の根拠があるか
  • 懲戒事由が整備されているか

相談・通報体制

  • 子どもや保護者が相談できる窓口があるか
  • 従業員が異変に気付いた場合の報告先が決まっているか
  • 相談を受けた場合の初動対応が決まっているか
  • 記録の作成・保存方法が決まっているか

個人情報管理

  • 犯罪事実確認の結果を誰が扱うか決まっているか
  • 情報の保管方法が決まっているか
  • 社内共有の範囲を限定しているか
  • 保存期間や廃棄・消去の方法が、法令・ガイドラインに沿って決まっているか
  • 漏えい時の対応手順があるか

11 採用・内定・試用期間・解雇に関するQ&A

こども性暴力防止法への対応では、採用時の確認、誓約書、内定取消し、本採用拒否、雇止め、解雇などが問題になります。

ここで重要なのは、 「特定性犯罪前科がある人を、常に自由に不採用・内定取消し・解雇できる」という制度ではない という点です。

子どもと接する業務の安全確保という必要性がある一方で、応募者・従業員の個人情報、プライバシー、労働契約上の地位にも配慮する必要があります。


Q1 採用時に「性犯罪歴等がありますか」と質問してよいですか。

子どもと接する対象業務との関係で必要な範囲であれば、確認することは考えられます。

ただし、質問の仕方には注意が必要です。

「性犯罪歴等がありますか」という表現は、やや広く、逮捕歴、送検歴、不起訴、噂、過去の苦情などまで含むように読まれるおそれがあります。

法律上の確認対象を明確にするのであれば、まずは、 「こども性暴力防止法にいう特定性犯罪事実該当者に該当しないこと」 を確認する形にするのが適切です。

また、犯罪の経歴は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当します。 そのため、取得する場合には、利用目的を明確にし、本人の同意を得たうえで、必要な範囲に限定して取り扱う必要があります。

採用選考では、職務遂行上必要な適性・能力に関係する事項を確認することが原則です。 したがって、子どもと接しない職種について、一律に特定性犯罪前科の有無を質問することは避けるべきです。

対応策

  • 対象を「子どもと接する業務に従事する予定の者」に限定する。
  • 「性犯罪歴等」という広い表現だけでなく、「特定性犯罪前科」「特定性犯罪事実該当者に該当しないこと」と明記する。
  • 利用目的を「児童対象性暴力等の防止」「子どもの安全確保」「配置判断」に限定する。
  • 必要以上に詳細な事情を聞き取らない。
  • 取得した情報を扱う担当者を限定する。
  • 取得した情報を目的外に利用しない。

Q2 採用時に「特定性犯罪事実該当者に該当しないこと」の誓約書を提出してもらってよいですか。

子どもと接する業務との関係で必要性がある場合には、誓約書の提出を求めることは考えられます。

誓約書では、単に 「性犯罪歴等はありません」 と記載するよりも、次のように法律上の対象を明確にする方が適切です。

«私は、こども性暴力防止法にいう特定性犯罪事実該当者に該当しません。»

このように記載することで、犯罪事実確認制度の対象と整合しやすくなります。

もっとも、誓約書を取得すれば、後にどのような不利益取扱いも当然に有効になるわけではありません。 対象業務との関連性、本人への説明、就業規則や内定通知書の記載、配置可能性、手続の相当性などを総合的に検討する必要があります。

対応策

  • 誓約書の対象者を、子どもと接する業務に従事する予定の者に限定する。
  • 「特定性犯罪前科がないこと」又は「特定性犯罪事実該当者に該当しないこと」と明記する。
  • なぜ確認するのかを説明する。
  • 虚偽申告があった場合には、内定取消し、採用取消し、本採用拒否、懲戒、解雇等の対象となることがある旨を明記する。
  • 募集要項、内定通知書、雇用契約書、就業規則との整合性を取る。
  • 誓約書を取得した後の保管・閲覧・廃棄ルールを定める。

Q3 採用時に特定性犯罪事実該当者に該当することが分かった場合、採用しないことはできますか。

子どもと接する業務については、採用しない判断が合理的とされる可能性があります。

採用段階では、企業には一定の採用の自由があります。 特に、子どもと接する業務について、特定性犯罪前科が確認された場合には、子どもの安全確保の観点から、採用しない判断には相応の合理性があると考えられます。

もっとも、形式的に「前科があるから一律に不採用」とするのではなく、次の点を確認することが望ましいです。

  • その職種が子どもと接する業務か
  • 1対1、密室、送迎、宿泊、身体接触などのリスクがあるか
  • 子どもと接しない業務での採用可能性があるか
  • 募集要項や採用条件で、特定性犯罪前科がないことを明示していたか
  • 本人への説明と確認手続が適切か

対応策

  • 募集要項に「子どもと接する業務であるため、特定性犯罪前科がないことを採用条件とする場合がある」と明記する。
  • 採用しない理由は、単なる過去の制裁ではなく、「子どもの安全確保」「業務適性」「配置上の必要性」として整理する。
  • 不採用理由を説明する場合は、個人情報・プライバシーに十分配慮する。
  • 記録は必要最小限にとどめる。

Q4 特定性犯罪前科に関する質問に答えない人、又は誓約書を提出しない人を採用しないことはできますか。

対象業務に必要な確認であることを事前に明示していれば、採用しない判断はあり得ます。

子どもと接する業務では、事業者が安全確保措置を講じる必要があります。 そのため、特定性犯罪前科の有無の確認が職務上必要であるにもかかわらず、応募者が合理的な理由なく回答を拒否したり、誓約書の提出を拒否したりする場合には、採用しない判断が合理的とされる可能性があります。

ただし、事前説明が不十分なまま、突然回答や誓約書提出を求め、拒否したことだけを理由に不採用とすることは、トラブルになり得ます。

対応策

  • 募集要項・採用説明資料に、確認が必要であることを事前に記載する。
  • 回答・誓約書提出の目的を説明する。
  • 対象業務との関連性を説明する。
  • 拒否された場合には、理由を確認する。
  • 子どもと接しない職種での採用可能性がある場合は検討する。

Q5 特定性犯罪事実該当者に該当することが判明した場合、採用内定を取り消すことはできますか。

内定取消しは、採用前の不採用よりも慎重な判断が必要です。

採用内定は、法的には、すでに労働契約が成立していると評価される場合があります。 その場合、内定取消しは、単なる不採用ではなく、留保された解約権の行使として扱われます。

そのため、内定取消しが有効とされるためには、一般に、内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実であり、その事実を理由として内定を取り消すことが、客観的に合理的で社会通念上相当といえる必要があります。

子どもと接する業務について、特定性犯罪前科があることが判明した場合には、子どもの安全確保の観点から、内定取消しを検討すべき場合があります。

ただし、そのためには、採用段階で特定性犯罪前科がないことを確認していたか、募集要項や内定通知書にその点を明記していたかが重要になります。

対応策

  • 募集要項に、特定性犯罪前科がないことを採用条件として明記する。
  • 誓約書・履歴書等で、特定性犯罪前科がないことを確認する。
  • 内定通知書に、「重要な経歴の詐称」が内定取消事由となることを明記する。
  • 特定性犯罪前科が判明した場合には、子どもと接しない業務への配置可能性も検討する。
  • 内定取消しを行う場合は、理由、手続、説明内容を記録する。

Q6 採用時には確認していなかったが、後から特定性犯罪事実該当者に該当することが判明した場合、内定を取り消せますか。

内定取消しが認められないリスクがあります。

採用過程で特定性犯罪前科がないことを確認しておらず、募集要項や内定通知書にも明記していなかった場合、後から特定性犯罪前科が判明しただけで内定取消しが当然に有効になるとは限りません。

この場合でも、子どもと接する業務に就かせることができない事情がある場合には、安全確保措置を検討する必要があります。 ただし、その対応として直ちに内定取消しを選択できるかは、個別判断になります。

対応策

  • 今後の採用では、募集要項、誓約書、内定通知書を整備する。
  • すでに内定済みの場合は、子どもと接しない業務への配置可能性を検討する。
  • 内定取消しを検討する場合は、業務内容、リスク、配置可能性、本人への説明、手続を慎重に確認する。
  • 事前確認がない事案では、内定取消しの前に専門家に相談することが望ましい。

Q7 同様の事例で、試用期間満了時に本採用しないことはできますか。

試用期間満了時の本採用拒否も、法的には解雇に近い扱いになるため、慎重な判断が必要です。

試用期間中であっても、通常はすでに労働契約が成立しています。 そのため、本採用拒否は、単なる採用しない判断ではなく、留保解約権の行使、つまり解雇に近いものとして扱われます。

特定性犯罪前科があることや、採用時に虚偽申告をしていたことが判明した場合、子どもと接する業務については、本採用拒否の理由となり得ます。

ただし、次のような点を確認する必要があります。

  • 採用時に特定性犯罪前科がないことを確認していたか
  • 誓約書や採用書類に虚偽があったか
  • 就業規則に本採用拒否・試用期間中の解約事由があるか
  • 子どもと接する業務に就かせることができない具体的事情があるか
  • 子どもと接しない業務への配置可能性があるか
  • 本人に事実確認と弁明の機会を与えたか

対応策

  • 就業規則に、試用期間中又は試用期間満了時の解約事由として、「重要な経歴の詐称」「児童対象性暴力等の防止措置上、子どもと接する業務に従事させることが相当でない場合」などを定める。
  • 採用時の誓約書と就業規則を整合させる。
  • 本採用拒否の前に、本人に事実確認と説明の機会を与える。
  • 配置転換等の代替措置を検討する。
  • 判断過程を記録する。

Q8 同様の事例で、有期雇用契約の期間満了時に雇止めすることはできますか。

有期雇用の場合でも、雇止めが常に自由にできるわけではありません。

契約期間が満了する場合でも、契約が反復更新されていたり、更新されると期待する合理的な理由があったりする場合には、雇止めが制限されることがあります。

もっとも、子どもと接する業務について、特定性犯罪前科があることや、虚偽申告が判明した場合には、雇止めの合理的理由となる可能性があります。

ただし、次の点を確認する必要があります。

  • 契約更新の回数
  • 通算雇用期間
  • 更新手続の実態
  • 更新期待を生じさせる説明があったか
  • 雇用契約書に更新基準が明記されているか
  • 特定性犯罪前科の確認を採用時・更新時にしていたか
  • 子どもと接しない業務への配置可能性があるか

対応策

  • 有期雇用契約書に、更新の有無、更新基準、更新しない場合の基準を明記する。
  • 子どもと接する業務では、更新基準に「児童対象性暴力等の防止措置上、子どもと接する業務に従事させることが相当でない事情がないこと」などを加える。
  • 雇止めを行う場合は、契約期間満了前に余裕をもって説明する。
  • 反復更新者については、雇止め法理の適用可能性を確認する。
  • 必要に応じて、子どもと接しない業務への配置変更を検討する。

Q9 同様の事例で、正社員を解雇することはできますか。

正社員の解雇は最も慎重な判断が必要です。

正社員については、労働契約法上、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。 特定性犯罪前科があることが判明した場合でも、それだけで当然に解雇できるわけではありません。

特に、採用時に特定性犯罪前科がないことを確認していなかった場合、後から判明したというだけで解雇することは、高いリスクがあります。

他方で、次のような事情がある場合には、解雇や懲戒処分を検討する余地があります。

  • 採用時に特定性犯罪前科がないことを明確に確認していた
  • 本人が虚偽申告をしていた
  • 子どもと接する業務が職務の中心である
  • 配置転換が困難である
  • 子どもと接することによる具体的な安全上のリスクがある
  • 就業規則に懲戒事由・解雇事由が定められている
  • 本人への事実確認・弁明機会など、手続を尽くしている

正社員の場合は、まず、子どもと接する業務から外す、1対1を避ける、配置転換を行うなどの防止措置を検討すべきです。 解雇は、これらの措置では対応できない場合の最終手段と位置付けるべきです。

対応策

  • 就業規則に、重要な経歴の詐称、児童対象性暴力等の防止措置、配置転換命令、懲戒事由、解雇事由を整備する。
  • 採用時の誓約書を整備する。
  • 子どもと接しない業務への配置可能性を検討する。
  • 本人から事情を聴取し、弁明の機会を与える。
  • 懲戒解雇ではなく、普通解雇、配置転換、業務限定など他の選択肢も比較検討する。
  • 解雇を行う場合は、解雇理由、証拠、手続、代替措置の検討状況を記録する。

Q10 法律上の犯罪事実確認の対象外であれば、事業者は何もしなくてよいですか。

そうではありません。

犯罪事実確認の対象外であっても、子どもの安全確保の観点から対応が必要となる場合があります。

例えば、次のような情報は、犯罪事実確認の対象そのものではありません。

  • 逮捕歴
  • 書類送検歴
  • 不起訴処分
  • 過去の相談・苦情
  • 社内懲戒歴
  • 性的言動に関するトラブル

しかし、これらの情報により、子どもへの性暴力のおそれが具体的に疑われる場合には、事業者として、安全確保措置、事実確認、配置上の配慮、相談体制の整備などを検討する必要があります。

ただし、不確かな情報だけで不利益な取扱いをすることは、別の法的リスクを生じさせます。 噂や未確認情報に基づいて、直ちに不採用、内定取消し、解雇などを行うことは避けるべきです。

対応策

  • 犯罪事実確認の対象情報と、それ以外のリスク情報を区別する。
  • 噂や未確認情報だけで判断しない。
  • 必要に応じて本人から事情を確認する。
  • 子どもと接しない業務への一時的な配置変更など、過度でない安全措置を検討する。
  • 記録を作成し、判断過程を残す。
  • 不利益取扱いをする場合は、法的根拠と手続を慎重に確認する。

12 在職中の従業員が特定性犯罪に相当する行為をした場合の対応

ここまで述べた「特定性犯罪前科」とは、法律で定められた特定性犯罪について、有罪判決が確定し、確認対象期間内にある場合を指します。

これに対し、在職中の従業員について、子どもに対するわいせつ行為、性的な撮影、SNSでの性的要求など、特定性犯罪に相当する行為をした疑いが生じる場合があります。

この場合、刑事裁判で有罪判決が確定するまでは、法律上の「特定性犯罪前科」があるとはいえません。 そのため、企業としては、 「特定性犯罪前科があるかどうか」ではなく、「児童対象性暴力等のおそれ又は事実があるか」「子どもと接する業務を継続させてよいか」 という観点から対応を検討する必要があります。

重要なのは、刑事処分の結論を待たなければ何もできないわけではない、という点です。 企業は、子どもの安全確保のため、刑事手続とは別に、業務上必要な暫定措置や事実確認を行うことができます。

1 まず取るべき初動対応

従業員による児童対象性暴力等の疑いが生じた場合、企業は、まず子どもの安全確保を優先します。

考えられる初動対応は、次のとおりです。

対応 内容
子どもとの接触遮断 当該従業員を、子どもと接する業務から一時的に外す
1対1接触の禁止 個別指導、送迎、面談、SNS連絡等を直ちに止める
自宅待機・別業務命令 調査中の安全確保として、就業規則・業務命令に基づき実施する
被害児童・保護者対応 安全確保、説明、相談窓口案内、必要な支援を行う
証拠保全 防犯カメラ、入退室記録、勤務記録、チャット、メール、面談記録等を保全する
関係者聴取 被害児童、保護者、同僚、管理者等から慎重に事情を確認する
行政・警察等への相談 事案の性質に応じて、警察、児童相談所、監督官庁、自治体等への相談・通報を検討する

この段階で重要なのは、懲戒や解雇を急ぐことではなく、まず子どもと接触させないことです。

疑いの段階であっても、子どもの安全確保のために、業務命令として一時的に子どもと接する業務から外すことは検討できます。 ただし、調査中の暫定措置として自宅待機を命じる場合には、業務命令としての必要性、期間、賃金の取扱い、就業規則上の根拠を確認する必要があります。
これに対し、懲戒処分として出勤停止を行う場合には、就業規則上の懲戒事由・手続・処分の相当性を別途確認する必要があります。

なお、警察、児童相談所、所轄庁、自治体等への相談・通報の要否は、事案の内容、被害児童の安全状況、対象事業の種類、関係法令・行政指導の有無によって異なります。
現場判断だけで抱え込まず、必要に応じて早期に専門家・行政機関に相談することが重要です。

2 調査中に注意すべきこと

調査中は、次の点に注意が必要です。

① 被害児童への二次被害を避ける

被害児童に何度も詳細な事情を聞く、責めるような聞き方をする、加害疑いの従業員と対面させる、といった対応は避けるべきです。

必要に応じて、保護者、警察、児童相談所、専門機関等と連携し、被害児童の安全と心理的負担に配慮して対応します。

② 不確かな情報で断定しない

噂、SNS投稿、匿名通報だけで、直ちに「性犯罪をした」と断定することは避けます。

一方で、断定できないから何もしない、という対応も不適切です。 安全確保措置と事実確認は分けて考える必要があります。

③ 情報管理を徹底する

犯罪の経歴や刑事事件に関する手続の情報は、本人にとって非常に重大な情報です。 また、被害児童に関する情報も、極めて慎重に取り扱う必要があります。

社内共有は、経営者、人事責任者、現場責任者、法務・コンプライアンス担当など、対応に必要な最小限の範囲に限定すべきです。

3 企業が取り得る人事・労務上の措置

調査結果や事案の重大性に応じて、企業が取り得る措置は次のとおりです。

措置 位置付け 注意点
注意・指導 軽微又は不適切行為の段階 性暴力事案ではこれだけで足りるとは限りません
子どもと接する業務から外す 安全確保措置 まず検討すべき基本対応です
配置転換 再発防止・接触回避 配転命令権の範囲、賃金低下、職種限定の有無を確認します
業務制限 1対1指導、送迎、SNS連絡等の禁止 具体的・明確な禁止事項を示します
自宅待機命令 調査・安全確保のための暫定措置 賃金支払の要否、期間、根拠を確認します
懲戒処分 就業規則違反への制裁 就業規則上の懲戒事由、手続、相当性が必要です
普通解雇 雇用継続が困難な場合 客観的合理性・社会的相当性が必要です
懲戒解雇 極めて重大な非違行為の場合 最も重い処分であり、慎重な手続が必要です
有期契約の雇止め 更新時の対応 雇止め法理の適用可能性を確認します
損害賠償・求償 企業が損害を受けた場合 故意・過失、損害、因果関係、信義則上の制限を検討します

4 懲戒処分・解雇を検討する場合の判断要素

従業員が、特定性犯罪に相当する行為をした場合、懲戒処分や解雇を検討する余地があります。

ただし、解雇は自由にできるものではありません。 労働契約法上、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。

判断要素としては、次の点が重要です。

判断要素 確認ポイント
行為の内容 わいせつ行為、性交等、盗撮、SNSでの性的要求、身体接触等の内容
被害者 児童・生徒・利用者・顧客・同僚の未成年者か
業務関連性 業務中、施設内、送迎中、指導中、業務上の関係を利用したか
立場の利用 教師、講師、指導者、管理者などの優越的立場を利用したか
証拠の程度 本人の認否、客観資料、目撃証言、記録、刑事手続の状況
再発リスク 子どもと接する業務継続の危険性
配置転換可能性 子どもと接しない業務に移せるか
就業規則 懲戒事由・解雇事由に該当するか
手続 本人への事情聴取、弁明機会、懲戒委員会等の手続
企業への影響 被害者対応、保護者対応、信用毀損、行政対応の必要性

特に、子どもと接する業務を担当する従業員が、業務上の関係を利用して児童対象性暴力等を行った場合には、重大な企業秩序違反であり、懲戒解雇を含む厳しい処分を検討し得ます。

一方で、事実関係が不明確な段階や、業務との関連性が薄い段階で、直ちに懲戒解雇とすることはリスクがあります。 まずは接触回避、調査、証拠保全、本人聴取、配置転換可能性の検討を行うべきです。

5 刑事手続の段階ごとの対応

刑事手続の段階ごとに、企業の基本対応は異なります。

段階 企業の基本対応
噂・相談・通報段階 子どもとの接触を一時的に止め、事実確認を開始する
被害申告・具体的証拠あり 接触遮断、自宅待機、関係者聴取、警察・行政相談を検討する
逮捕・報道 事実確認、広報対応、保護者対応、就業規則に基づく暫定措置を検討する
起訴 業務継続の可否、配置転換、休職・自宅待機、懲戒処分の時期を検討する
有罪判決確定 特定性犯罪事実該当者に該当するか、犯罪事実確認制度・判決内容・業務内容を踏まえて確認し、防止措置、懲戒・解雇等を検討する
不起訴・無罪 直ちに問題なしとは限らないが、企業独自の調査結果に基づき慎重に判断する

重要なのは、刑事処分の結論を待たなければ一切対応できないわけではないという点です。

ただし、刑事裁判で有罪が確定していない段階では、「特定性犯罪前科がある」と断定して対応するのではなく、 「児童対象性暴力等のおそれがある」 「職務適性に重大な疑義がある」 「子どもと接する業務を継続させることが相当でない」 という形で整理する方が適切です。

6 正社員・有期雇用・業務委託で対応は異なる

正社員

正社員については、配置転換、業務制限、懲戒処分、普通解雇、懲戒解雇などを検討します。

解雇は最終手段であり、証拠、就業規則、手続、配置転換可能性を慎重に確認する必要があります。

有期雇用

有期雇用については、契約期間途中の解雇は、期間の定めのない労働契約よりも厳しく判断されます。

期間満了時の雇止めであっても、反復更新の実態や更新期待がある場合には、客観的・合理的理由と社会通念上の相当性が問題になります。

業務委託・外部講師

業務委託や外部講師については、契約解除、業務停止、入構禁止、子どもとの接触禁止などを検討します。

ただし、契約書に解除事由、禁止事項、調査協力義務、損害賠償、再委託先管理などを定めておくことが重要です。

7 事前に整備しておくべき規程・書類

事後対応を適切に行うには、事前の規程整備が重要です。

企業としては、次の書類を整備しておくことが望ましいです。

  • 児童対象性暴力等防止規程
  • 相談・通報対応マニュアル
  • 事実調査手順書
  • 就業規則
  • 懲戒規程
  • 配置転換・業務制限に関する規定
  • 自宅待機命令に関する規定
  • 情報管理規程
  • 業務委託契約書・外部講師契約書
  • 保護者・児童向け相談窓口案内

特に、就業規則には、児童対象性暴力等を行った場合、調査に協力しない場合、虚偽の説明をした場合、子どもと接する業務に従事させることが相当でない場合などについて、服務規律、懲戒事由、配置転換・業務制限の根拠を整備しておくことが重要です。

8 実務上の対応フロー

企業向けには、次のように整理すると分かりやすいです。

  1. 相談・通報・発覚 被害申告、保護者相談、同僚からの報告、SNS情報、警察連絡等により発覚

  2. 子どもとの接触遮断 直ちに1対1指導、送迎、SNS連絡、面談等を停止

  3. 証拠保全 防犯カメラ、入退室記録、勤務表、メール、チャット、指導記録等を保存

  4. 事実確認 被害児童・保護者・関係者・本人から慎重に事情聴取

  5. 外部機関への相談 警察、児童相談所、自治体、監督官庁、弁護士等に相談

  6. 暫定措置 自宅待機、配置転換、業務制限、入構制限等を実施

  7. 処分検討 就業規則に基づき、注意、譴責、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇、普通解雇等を検討

  8. 再発防止策 現場ルール、研修、相談窓口、保護者周知、SNSルールを見直す

  9. 記録保存・情報管理 調査記録、判断過程、対応内容を限定管理する

9 企業が避けるべき対応

次の対応は避けるべきです。

  • 子どもとの接触を止めず、通常業務を続けさせる
  • 噂だけで直ちに懲戒解雇する
  • 被害児童に繰り返し詳細な聞き取りを行う
  • 加害疑いの従業員と被害児童を対面させる
  • 社内で不用意に情報共有する
  • 保護者への説明を現場任せにする
  • 警察や行政への相談を不合理に遅らせる
  • 就業規則上の根拠を確認せずに処分する
  • 本人への弁明機会を与えない
  • 記録を残さずに対応する

10 まとめ

従業員が、特定性犯罪前科に相当する行為をした疑いがある場合、企業は、まず子どもとの接触を止め、安全確保と事実確認を行う必要があります。

刑事裁判で有罪判決が確定する前の段階では、法律上の「特定性犯罪前科」とは区別し、 「児童対象性暴力等のおそれがあるか」 「子どもと接する業務を継続させることが相当か」 という観点から判断します。

事実が確認された場合には、配置転換、業務制限、懲戒処分、普通解雇、懲戒解雇などを検討し得ます。 ただし、解雇や懲戒処分には、就業規則上の根拠、客観的な証拠、本人への弁明機会、処分の相当性が必要です。

そのため、子どもと接する事業者は、平時から、相談・通報体制、調査手順、接触回避措置、就業規則、情報管理規程を整備しておくことが重要です。


13 事業者はどのような書類を整備しておくべきか

対象事業者や、子どもと接する業務がある事業者では、次の書類を整備しておくことが望ましいです。

  • 募集要項
  • 採用時説明書
  • 特定性犯罪前科がないことの確認書・誓約書
  • 採用内定通知書
  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 服務規律
  • 懲戒規程
  • 個人情報管理規程
  • 相談・通報対応マニュアル
  • 児童対象性暴力等防止に関する現場ルール
  • 業務委託契約書
  • 外部講師契約書

特に重要なのは、採用段階から、次の点を明確にしておくことです。

  • 子どもと接する業務であること
  • 特定性犯罪前科がないことが採用・配置上重要であること
  • 虚偽申告があった場合には、内定取消し、採用取消し、本採用拒否、懲戒、解雇等の対象となること
  • 犯罪事実確認のため、必要な範囲で個人情報を取得・利用すること
  • 取得した情報は、目的外に利用せず、厳格に管理すること
  • 在職中に児童対象性暴力等のおそれが生じた場合の調査・接触回避・配置転換・懲戒等の手順を定めておくこと

14 対象業種でない企業も無関係とは限らない

一般企業であっても、次のような活動がある場合には、注意が必要です。

  • 子ども向けイベントを開催している
  • 職場体験、インターンシップ、見学会で未成年者を受け入れている
  • スポーツ、文化活動、地域活動で子どもと接する
  • 従業員が業務として未成年者と接する
  • 子ども向けのオンラインサービスを提供している

法律上の直接の対象事業者ではない場合でも、未成年者と接する活動がある場合には、安全確保、相談体制、SNS連絡ルールなどを整備しておくことが望ましいといえます。


15 実務上、避けるべき対応

避けるべき対応は、次のようなものです。

  • 子どもと関係のない職種まで、一律に特定性犯罪前科を質問する
  • 「性犯罪歴等」という広い表現だけで、対象を明確にしない
  • 利用目的を説明せずに、犯罪歴に関する情報を聞く
  • 誓約書を取らず、内定通知書にも記載しないまま、後から内定取消しをする
  • 特定性犯罪前科があると分かっただけで、配置転換を検討せずに直ちに解雇する
  • 在職中の疑い事案で、子どもとの接触を止めずに通常業務を続けさせる
  • 犯罪歴情報や被害児童に関する情報を社内で不用意に共有する
  • 噂や不確かな情報だけで不利益取扱いをする
  • 本人への確認や弁明の機会を与えない
  • 記録を残さずに対応する

この分野では、子どもの安全確保が最優先ですが、同時に、応募者・従業員の権利にも配慮する必要があります。 そのため、事前の制度設計、書類整備、情報管理、慎重な個別判断が重要です。


16 実務上のまとめ

こども性暴力防止法への対応では、採用時から次の準備をしておくことが重要です。

  1. 子どもと接する業務を洗い出す
  2. 募集要項に必要な採用条件を明記する
  3. 「特定性犯罪前科がないこと」又は「特定性犯罪事実該当者に該当しないこと」を確認する誓約書を整備する
  4. 内定通知書に、重要な経歴の詐称等を内定取消事由として明記する
  5. 就業規則に、試用期間中の解約事由、懲戒事由、解雇事由を整備する
  6. 犯罪事実確認に関する情報管理ルールを作る
  7. 在職中に児童対象性暴力等のおそれが生じた場合の調査・接触回避・配置転換・懲戒等の手順を整備する
  8. 判明時には、配置転換等の防止措置を検討する
  9. 内定取消し、本採用拒否、雇止め、解雇は、個別事情を踏まえて慎重に判断する

重要なのは、 「事前に説明し、事前に確認し、事前に書類を整備しておくこと」 です。

事前準備が不十分な場合、特定性犯罪前科が判明しても、内定取消し、雇止め、解雇などが有効と認められないリスクがあります。

また、在職中に児童対象性暴力等のおそれが生じた場合には、まず子どもとの接触を止め、安全確保と事実確認を行う必要があります。 刑事裁判の結論を待たなければ何もできないわけではありませんが、事実関係が不明確な段階で断定的に懲戒・解雇を行うことも避けるべきです。

子どもと接する事業者は、採用管理、現場管理、労務管理、個人情報管理を一体として整備しておくことが重要です。


参考資料

※本記事は、2026年6月時点で確認できる公表資料をもとに、企業実務向けに概要を整理したものです。
本記事では、企業実務上の分かりやすさを優先し、「子どもと接する業務」「特定性犯罪前科」等の表現を用いていますが、実際に犯罪事実確認の対象となるか、またどのような防止措置・労務対応が必要となるかは、法令・ガイドライン上の要件、事業類型、業務内容、個別事情によって異なります。
経過措置の期限、犯罪事実確認の具体的手続、情報の廃棄・消去方法等は、政省令・ガイドラインの改訂により変わる可能性があるため、実際の対応にあたっては、最新の法令、政省令、ガイドライン、こども家庭庁の公表資料等をご確認ください。