今後注意したい企業関連法改正・制度改正の動向
企業実務に影響する法改正には、すでに施行されているものや施行日が近いものだけでなく、法律は成立しているものの、具体的な施行時期や実務対応の詳細が今後定められるものもあります。 本ページでは、企業の人事・法務・コンプライアンス担当者が、今後注意しておきたい法改正・制度改正の動向を整理します。
本ページでは、既に成立した法改正だけでなく、今後施行予定の制度改正や、政府・行政機関で検討・周知が進められている企業実務に影響する制度動向を紹介します。 施行時期、政省令、指針、通達、行政資料等は今後更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては最新の官公庁資料等をご確認ください。
1 ストレスチェック義務対象事業場の拡大
1-1 改正の概要
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)により、ストレスチェック制度の対象が拡大されます。
これまで、ストレスチェックの実施は、常時使用する労働者数が50人以上の事業場では義務とされ、50人未満の事業場では当分の間の努力義務とされていました。 今回の改正により、労働者数50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施が義務化されます(施行日は後述のとおり、今後の政令で定められます)。
| 改正法 | 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号) |
|---|---|
| 公布日 | 令和7年5月14日 |
| 主な内容 | 労働者数50人未満の事業場について、ストレスチェックの実施義務の対象を拡大 |
| 施行時期 | 公布後3年以内に政令で定める日。なお、令和8年5月18日の第185回労働政策審議会安全衛生分科会では、50人未満事業場へのストレスチェック義務化に関する施行期日を令和10年(2028年)4月1日とする政令案要綱等が示されています。正式な施行日は、今後公布される政令により確定することになります。 |
| 企業実務上の位置づけ | 直ちに義務が発生しているものではありませんが、小規模事業場を有する企業では、制度開始に向けた準備が必要となる可能性があります。 |
1-2 施行時期
50人未満の事業場へのストレスチェック義務化については、施行期日が「公布後3年以内に政令で定める日」とされています。
この点について、令和8年5月18日の第185回労働政策審議会安全衛生分科会では、50人未満事業場へのストレスチェック義務化に関する施行期日を令和10年(2028年)4月1日とする政令案要綱等が示されています。 ただし、正式な施行日は、今後公布される政令により確定することになります。
したがって、現時点では、すべての小規模事業場で直ちに義務が発生しているわけではありません。 もっとも、施行日が令和10年(2028年)4月1日となった場合、企業実務上は、施行後の初回実施時期を見据え、令和10年度中に実施体制を整える必要があります。
また、小規模事業場向けの実施マニュアルは、令和8年(2026年)2月に厚生労働省から公表されています。 ただし、施行日、政省令、指針、Q&A等については、今後の更新を引き続き確認する必要があります。
2 企業実務への影響
今回の改正は、特に次のような企業・事業場に影響します。
- 労働者数50人未満の事業場
- 小規模の支店、営業所、店舗、診療所、薬局、教室等を複数運営している企業
- これまで産業医・外部機関との連携体制が十分でなかった企業
- メンタルヘルス不調者対応、休職・復職対応、ハラスメント対応が課題となっている企業
ストレスチェック制度は、単に従業員に質問票を配布して回収するだけの制度ではありません。 実施者・実施事務従事者の選任、結果の取扱い、高ストレス者への面接指導の勧奨、医師による面接指導、就業上の措置、集団分析、個人情報管理など、複数の実務対応が必要になります。
※このうち集団分析(集団ごとの集計・分析)は、現行制度では努力義務とされています(労働安全衛生規則第52条の14)。今回の改正でも、集団分析・職場環境改善の義務化の可否は、今後の検討課題とされています。
小規模事業場では、人事担当者や管理者の人数が限られているため、外部委託、産業保健総合支援センター、地域産業保健センター等の活用を含め、現実的に運用できる体制を検討することが重要です。
3 今から確認しておきたい事項
3-1 対象事業場の洗い出し
まず、自社に労働者数50人未満の事業場があるかを確認します。 本社だけでなく、支店、営業所、店舗、事業所、教室、診療所、薬局など、事業場単位で確認することが重要です。
3-2 現在のメンタルヘルス対応体制の確認
次に、現在のメンタルヘルス対応体制を確認します。
- 相談窓口はあるか
- 休職・復職のルールは整備されているか
- ハラスメント相談窓口と連携できているか
- 長時間労働者への医師面接指導の運用はできているか
- 産業医、保健師、外部EAP等との連携はあるか
これらを確認しておくと、ストレスチェック義務化への対応も進めやすくなります。
3-3 外部委託の要否
小規模事業場では、自社だけでストレスチェックを実施することが難しい場合があります。 その場合、外部機関への委託を検討することになります。
ただし、外部委託をする場合でも、企業側の責任がなくなるわけではありません。 委託先の選定、個人情報の取扱い、実施後の対応フローを確認する必要があります。
3-4 社内規程・社内ルールの整備
今後、制度詳細が明らかになった段階で、次のような社内ルールの整備が必要になる可能性があります。
- ストレスチェック実施規程
- 個人情報の取扱いルール
- 高ストレス者対応フロー
- 医師面接指導の申出手続
- 人事・上司への情報共有ルール
- 休職・復職制度との接続
- ハラスメント相談窓口との連携
4 企業担当者向けチェックリスト
現時点では、次のような準備から始めることが考えられます。
- 労働者数50人未満の事業場の有無を確認する
- 各事業場の人数、所在地、担当者を整理する
- 現在のメンタルヘルス相談体制を確認する
- 産業医・保健師・外部機関との連携状況を確認する
- ストレスチェックを外部委託する場合の候補先を確認する
- ストレスチェック結果の個人情報管理方法を検討する
- 高ストレス者が出た場合の対応フローを確認する
- ハラスメント相談、長時間労働対応、休職・復職制度との連携を確認する
- 労働基準監督署への報告義務については、現行制度上、50人未満の事業場は対象外とされているが、今後の省令等の内容を引き続き確認する
- 今後公表される政令、省令、指針、マニュアル、Q&A等を継続確認する
5 実務上の注意点
50人未満の事業場については、施行期日が「公布後3年以内に政令で定める日」とされています。 令和8年5月18日の第185回労働政策審議会安全衛生分科会では、令和10年(2028年)4月1日を施行期日とする政令案要綱等が示されていますが、正式な施行日は、今後公布される政令により確定することになります。
厚生労働省からは、小規模事業場向けのストレスチェック制度実施マニュアルが公表されています。 他方で、施行日、政省令、指針、Q&A、労働基準監督署への報告義務の取扱いなどについては、今後の更新を確認する必要があります。
長時間労働、ハラスメント、業務負荷、配置、休職・復職対応など、実際の職場環境に応じた対応が必要です。
小規模事業場では、労働者の人数が少ないため、ストレスチェック結果や集団分析結果から個人が推測されるリスクがあります。結果の管理方法、閲覧権限、社内共有範囲には特に注意が必要です。
ストレスチェック義務対象事業場の拡大は、小規模事業場にもメンタルヘルス対策を広げる重要な改正です。 もっとも、企業にとっては、単に新たな手続が増えるという問題ではありません。
今後は、小規模事業場であっても、メンタルヘルス対策、ハラスメント対策、長時間労働対策、休職・復職対応を一体として整備することが求められていくと考えられます。 特に、複数の小規模拠点を運営する企業では、各拠点任せにするのではなく、本部・人事部門・管理部門が統一的な運用ルールを整備することが重要です。
6 主な参考資料
-
厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html -
厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001543076.pdf -
厚生労働省「第185回労働政策審議会安全衛生分科会(資料)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/newpage_00057.html -
厚生労働省「『小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル』を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69680.html -
厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001646587.pdf -
厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70761.html
本記事は、企業の人事・法務・コンプライアンス担当者向けに、一般的な情報提供を目的として作成したものです。 個別の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。 法令、政省令、指針、通達、行政資料等は今後変更・更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては、最新の官公庁資料を確認し、必要に応じて弁護士、社会保険労務士、産業医等の専門家にご相談ください。