2025年(令和7年)6月に公益通報者保護法の一部を改正する法律が公布され、2026年(令和8年)12月1日に施行されます。
※本記事における公益通報者保護法の条文番号及び内容は、特に断りのない限り、2026年(令和8年)12月1日施行時点の公益通報者保護法(平成16年法律第122号。令和7年法律第62号による改正後)を前提としています。施行日前の条文とは異なる箇所がありますのでご留意ください。
今回の改正は、公益通報者の保護を強化するだけでなく、企業に対して、内部通報制度の実効性をより強く求める内容となっています。
特に、企業実務上重要なのは、次の点です。
- 公益通報を理由とする解雇・懲戒の無効
- 公益通報後、法定の起算点から1年以内の解雇・懲戒に関する推定規定
- 公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰
- 通報妨害の禁止
- 通報者探索の禁止
- 公益通報対応業務従事者の守秘義務
- 内部通報体制整備義務等に対する行政措置の強化
- フリーランス等を含む保護対象者の拡大
内部通報制度は、不祥事を外部に出さないための制度ではありません。企業が問題を早期に把握し、是正し、法令違反や社会的信用の毀損を防ぐためのリスク管理制度です。
今回の改正を踏まえると、企業は、単に通報窓口を設置しているだけでは足りず、通報を受けた後の調査、秘密保持、通報者保護、人事措置の判断過程まで含めて、実効的に機能する制度になっているかを確認する必要があります。
1 公益通報者保護法の基本構造
公益通報者保護法は、公益通報をした者に対する不利益取扱いを禁止し、公益通報に関して事業者等がとるべき措置を定める法律です。
同法の目的は、公益通報者の保護にとどまりません。法令違反の是正を通じて、国民の生命、身体、財産その他の利益を保護し、社会経済の健全な発展に資することも目的とされています。
根拠規定
公益通報者保護法第1条は、同法の目的として、公益通報者の保護と、国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを定めています。
また、同法第2条第1項は、「公益通報」の定義を定めています。公益通報に該当するためには、通報者、通報対象事実、通報先、通報目的などについて、同条の要件を満たす必要があります。
2 保護対象者の範囲が広がっています
改正後の公益通報者保護法では、公益通報を行う主体として、労働者、派遣労働者、役員に加え、特定受託業務従事者、いわゆるフリーランス等も明示されています。
企業実務では、従業員だけでなく、派遣労働者、業務委託先、フリーランス、役員などからの通報についても、公益通報者保護法上の保護対象になり得ることを前提に対応する必要があります。
特に、近年は、業務委託契約、フリーランス、副業・兼業人材、外部専門家の活用が広がっています。内部通報規程が「従業員」だけを対象とする内容になっている場合には、改正法に対応できているかを確認する必要があります。
根拠規定
公益通報者保護法第2条第1項は、公益通報を行う者として、労働者又は労働者であった者、派遣労働者又は派遣労働者であった者、特定受託業務従事者又は特定受託業務従事者であった者、これらの者が取引先等の事業に従事していた場合の関係者、役員を定めています。
フリーランス等に関しては、同項第3号が直接の業務委託関係にある特定受託業務従事者等を、同項第4号が取引先から業務委託を受けて事業に従事する特定受託業務従事者等を定めています。
また、特定受託業務従事者については、同項第3号において、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の定義を参照する形で定められています。
3 公益通報を理由とする不利益取扱いは禁止されます
公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由として、公益通報者に対して不利益な取扱いをすることを禁止しています。
労働者については、公益通報を理由とする解雇その他不利益な取扱いが禁止されます。派遣労働者については、派遣契約の解除や派遣労働者の交代要求等が問題となります。特定受託事業者については、業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引停止、報酬減額等が問題となります。役員については、報酬減額その他の不利益取扱いが禁止され、解任については損害賠償請求の対象となり得ます。
企業としては、公益通報があった後に、解雇、懲戒、降格、配置転換、評価引下げ、契約解除、取引停止などを行う場合には、その措置が公益通報を理由とするものではないことを説明できるようにしておく必要があります。
根拠規定
労働者については、公益通報者保護法第3条第1項が、公益通報を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。
派遣労働者については、同法第4条第1項が、公益通報を理由とする労働者派遣契約の解除、派遣労働者の交代要求その他不利益な取扱いを禁止しています。
特定受託事業者については、同法第5条が、公益通報を理由とする業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引停止、報酬減額その他不利益な取扱いを禁止しています。
役員については、同法第6条第1項が報酬減額その他不利益な取扱いを禁止し、同条第2項が、公益通報を理由として解任された役員による損害賠償請求を定めています。
4 公益通報後の解雇・懲戒には推定規定があります
今回の改正で、企業実務上特に重要なのが、公益通報後の解雇・懲戒に関する推定規定です。
改正後は、公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱いが、法定の起算点から1年以内にされた場合には、その解雇等特定不利益取扱いは、公益通報をしたことを理由としてされたものと推定されます。
ただし、この1年の起算点は、通報先によって異なります。
役務提供先等に対する内部通報の場合は、公益通報をした日が起算点となります。これに対し、行政機関への通報又は外部への通報の場合で、事業者がその公益通報がされたことを知って解雇等特定不利益取扱いをしたときは、事業者がその公益通報を知った日が起算点となります。
そのため、特に行政機関への通報や外部通報については、通報日そのものではなく、企業が当該通報の存在を知った時点を把握しておくことが重要になります。外部通報の場合、事業者が通報の存在を後日知ることもあり得るためです。
企業が、公益通報とは別の理由で懲戒処分や解雇を行う場合であっても、法定の起算点から1年以内であれば、公益通報を理由とするものではないことを説明する必要が生じます。
そのため、通報者について人事上の措置を行う場合には、通常以上に慎重な検討が必要です。特に、懲戒処分を検討する場合には、問題行動の内容、指導経過、本人の弁明、処分理由、処分量定の相当性、過去の類似事案との均衡などを記録化しておく必要があります。
根拠規定
公益通報者保護法第3条第2項は、同条第1項に違反して行われた解雇その他不利益な取扱いのうち、解雇及び懲戒としてされた不利益取扱いを「解雇等特定不利益取扱い」とし、これを無効としています。
同条第3項は、公益通報者に対する解雇等特定不利益取扱いが、同条第1項各号に定める公益通報をした日から1年以内にされたときは、同条第2項の適用について、その解雇等特定不利益取扱いは、公益通報をしたことを理由としてされたものと推定すると定めています。
ただし、同条第1項第2号又は第3号に定める公益通報、すなわち行政機関への通報又は外部への通報については、事業者がその公益通報がされたことを知って当該解雇等特定不利益取扱いをした場合には、事業者が当該公益通報を知った日が1年の起算点となります。
5 公益通報を理由とする解雇・懲戒には刑事罰が設けられます
改正後は、公益通報を理由とする一定の不利益取扱いについて、刑事罰が設けられます。
具体的には、労働者に対して、公益通報を理由として解雇等特定不利益取扱いをした場合、行為者に対して、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科され得ます。
また、法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が、法人の業務に関してこの違反行為をした場合には、行為者を罰するだけでなく、法人に対しても3000万円以下の罰金刑が科され得ます。
この点は、従来の民事上の無効という効果に加えて、刑事罰のリスクが生じるという意味で、企業の内部通報対応に大きな影響を及ぼします。
もっとも、実務上重要なのは、「刑事罰がある」という点だけではありません。通報後の人事措置について、事前に法務・人事・コンプライアンス部門が連携し、公益通報との関連性が疑われないよう、判断過程を整理しておくことです。
根拠規定
公益通報者保護法第21条第1項は、同法第3条第1項に違反して解雇等特定不利益取扱いをした場合、違反行為をした者を6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処すると定めています。
また、同法第23条第1項第1号は、法人の代表者又は法人の代理人、使用人その他の従業者が、法人の業務に関して第21条第1項の違反行為をした場合、行為者を罰するほか、法人に対して3000万円以下の罰金刑を科すると定めています。
6 通報妨害は禁止されます
改正後は、公益通報を妨げる行為が明確に禁止されます。
例えば、従業員や業務委託先に対して、公益通報をしない旨の合意を求めることや、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることなどは問題となり得ます。
実務上は、秘密保持契約、退職合意書、和解契約、業務委託契約、誓約書などの文言に注意が必要です。
もちろん、企業秘密や個人情報の保護は重要です。しかし、その文言が、公益通報を萎縮させる内容になっている場合には、通報妨害と評価されるリスクがあります。
特に、退職時の誓約書や和解合意書において、「社内外に一切の情報を漏らさない」「行政機関その他第三者に申告しない」といった包括的な文言を置いている場合には、公益通報者保護法との関係で見直しが必要です。
根拠規定
公益通報者保護法第11条の2第1項は、事業者が、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げてはならないと定めています。
同条第2項は、同条第1項に違反してされた合意その他の法律行為を無効としています。
7 通報者探索は禁止されます
今回の改正で、企業実務上特に注意すべきものの一つが、通報者探索の禁止です。
改正後は、事業者が、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をすることが禁止されます。
現場では、通報があった場合に、管理職や関係部署が、次のような確認をしようとすることがあります。
- 誰が通報したのか
- この内容を知っているのは誰か
- 通報者はおそらく誰か
- 誰が外部に話したのか
しかし、改正後は、このような対応が通報者探索と評価されるリスクがあります。
もちろん、通報内容を調査するために、関係者から事実確認を行うこと自体が直ちに禁止されるわけではありません。しかし、調査の目的は、通報対象事実の有無を確認することであり、通報者を特定することではありません。
調査担当者は、聞き取りの際にも、通報者の特定につながる質問を避ける必要があります。また、通報内容の共有範囲を必要最小限に限定し、通報者が推測されないよう情報管理を徹底する必要があります。
根拠規定
公益通報者保護法第11条の3は、事業者が、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならないと定めています。
8 公益通報対応業務従事者の守秘義務
公益通報対応業務従事者には、公益通報対応業務に関して知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない義務があります。
内部通報制度では、通報者の秘密が守られるという信頼がなければ、制度は機能しません。
そのため、企業は、公益通報対応業務従事者を形式的に指定するだけでなく、誰がどの範囲で情報にアクセスできるのか、調査資料をどこに保管するのか、メールやチャットでどのように共有するのか、経営層や人事部門にどの段階で報告するのかを明確にしておく必要があります。
特に、通報者を特定させる情報は、氏名に限られません。部署、役職、関与した業務、相談経緯、通報内容の詳細などから、通報者が推測される場合もあります。
根拠規定
公益通報者保護法第12条は、公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者が、正当な理由なく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないと定めています。
同法第22条は、第12条に違反して同条に規定する事項を漏らした者を、30万円以下の罰金に処すると定めています。
9 内部通報体制整備義務と行政措置
企業は、公益通報に適切に対応するため、公益通報対応業務従事者を定め、内部公益通報に応じるために必要な体制の整備、労働者等への周知その他の必要な措置をとる必要があります。
常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、これらは努力義務とされています。しかし、努力義務であっても、内部通報制度を整備しなくてよいという意味ではありません。企業規模、事業内容、不祥事発生時の影響、取引先や親会社からの要請等を踏まえると、中小企業であっても、一定の通報窓口や相談体制を整備しておくことが望ましい場合があります。
また、改正後は、体制整備義務等に関する行政措置も強化されています。ただし、従事者指定義務と体制整備義務では、違反した場合の効果が異なります。
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者が公益通報対応業務従事者を定める義務に違反している場合には、助言・指導、勧告、命令、公表、報告・立入検査等の対象となり得ます。
これに対し、内部公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制整備義務に違反している場合には、助言・指導、勧告の対象となり、勧告に従わない場合には公表の対象となり得ますが、従事者指定義務違反の場合と異なり、命令や刑事罰の対象としては整理されていません。
根拠規定
公益通報者保護法第11条第1項は、事業者に対し、公益通報を受け、通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務に従事する者、すなわち公益通報対応業務従事者を定める義務を課しています。
同条第2項は、事業者に対し、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者等に対する周知その他の必要な措置をとる義務を課しています。
同条第3項は、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者について、第1項及び第2項の義務を努力義務としています。
公益通報者保護法第15条は、内閣総理大臣による助言及び指導を定めています。
同法第15条の2は、勧告、命令、公表について定めています。特に、同条第1項から第3項は、同法第11条第1項に違反している場合の勧告、命令、公表を定めています。また、同条第5項は、同法第11条第2項に違反している事業者が勧告に従わなかった場合の公表を定めています。
同法第16条は、報告及び検査について定めています。
同法第21条第2項は、第15条の2第2項の命令違反や、第16条第1項に基づく報告義務違反・虚偽報告・検査拒否等について、30万円以下の罰金を定めています。
同法第24条は、第16条第2項に基づく報告義務違反・虚偽報告について、20万円以下の過料を定めています。
10 企業が誤解しやすいポイント
「通報者を確認しなければ調査できない」という誤解
通報内容の調査は必要です。しかし、調査の目的は、通報対象事実の有無を確認し、必要な是正措置を講じることです。通報者を特定することではありません。
通報者の特定につながる聞き取りや情報共有は、通報者探索と評価されるリスクがあります。
「通報後でも、別の理由があれば懲戒できる」という誤解
通報後であっても、通報とは無関係の理由に基づき、適正な手続で懲戒処分を行うことが常に禁止されるわけではありません。
しかし、公益通報後、法定の起算点から1年以内の解雇等特定不利益取扱いについては、公益通報を理由とするものと推定されます。内部通報の場合は公益通報をした日が起算点となりますが、行政機関への通報又は外部への通報の場合で、事業者がその公益通報がされたことを知って解雇等特定不利益取扱いをしたときは、事業者が当該公益通報を知った日が起算点となります。
そのため、企業側は、通報とは無関係の理由による措置であることを、客観的資料により説明できるようにしておく必要があります。
「窓口を設置していれば足りる」という誤解
内部通報制度は、窓口を設置するだけでは足りません。
通報受付後の調査体制、公益通報対応業務従事者の指定、秘密保持、通報者探索の防止、是正措置、記録管理、通報者への不利益取扱い防止まで含めて、実効的に機能する制度である必要があります。
「匿名通報は対応しなくてよい」という誤解
匿名通報であっても、内容が具体的であり、法令違反や重大な不正の可能性がある場合には、調査・確認が必要となる場合があります。
匿名であることだけを理由に一律に放置する運用は、内部通報制度の実効性という観点から問題があります。
「秘密保持契約で外部通報を防げる」という誤解
企業秘密や個人情報を保護することは重要です。
しかし、公益通報をしない旨の合意を求めたり、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げたりすることは、通報妨害として問題となり得ます。
退職合意書、和解契約、秘密保持誓約書、業務委託契約などの文言は、公益通報者保護法との関係で見直す必要があります。
11 施行までに確認すべきチェックポイント
企業としては、少なくとも次の点を確認しておくことが望まれます。
- 内部通報規程が、2026年12月1日施行後の公益通報者保護法に対応しているか
- 通報対象者が従業員に限定されていないか
- 派遣労働者、退職者、フリーランス、役員等からの通報を想定しているか
- 公益通報対応業務従事者を明確に指定しているか
- 通報内容を共有する範囲が必要最小限に限定されているか
- 通報者を特定させる情報の管理方法が定められているか
- 通報者探索を禁止する社内ルールが明確になっているか
- 管理職が通報者探索に当たり得る行為を理解しているか
- 通報後の人事措置について、法務・人事・コンプライアンス部門が確認する仕組みがあるか
- 懲戒処分や解雇を行う場合の証拠・判断過程を記録化しているか
- 秘密保持契約、退職合意書、和解契約、業務委託契約の文言が通報妨害になっていないか
- 匿名通報への対応方針が定められているか
- 是正措置や再発防止策の実施状況を記録しているか
- 内部通報制度の利用方法を労働者等に周知しているか
- 社外窓口を設けている場合、その役割、報告ルート、情報管理方法が明確になっているか
12 まとめ
2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法は、企業の内部通報制度に大きな影響を与えます。
特に、公益通報後、法定の起算点から1年以内の解雇・懲戒に関する推定規定、公益通報を理由とする解雇・懲戒への刑事罰、通報妨害の禁止、通報者探索の禁止、体制整備義務等に対する行政措置の強化は、企業実務上重要です。
企業にとって重要なのは、通報を抑え込むことではありません。内部通報制度を通じて問題を早期に把握し、適切に調査し、必要な是正措置を講じることです。
今回の改正を契機として、内部通報規程、通報窓口、調査体制、秘密保持、人事措置の判断プロセスを見直し、実際に機能する制度として整備しておくことが重要です。
参考資料
-
消費者庁「公益通報者保護法と制度の概要」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/ -
公益通報者保護法(平成16年法律第122号、令和8年12月1日施行時点、令和7年法律第62号による改正後)
https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000122/20261201_507AC0000000062 -
政府広報オンライン「公益通報者保護法が改正。『内部通報制度』で不正をストップ!」
https://www.gov-online.go.jp/article/202402/entry-5717.html