2026年 法改正動向レポート
企業法務・人事担当者が押さえておくべき主要法改正
2026年は取適法・カスハラ義務化・公益通報者保護法改正・保険業法・資金決済法など、企業実務に直結する重要な法改正が相次ぎます。経産省AI民事責任手引きも含め、業種別の影響と対応チェックリストを整理しました。
- 施行済1|中小受託取引適正化法(旧・下請法)— 2026年1月施行
- 施行済2|女性活躍推進法改正(男女賃金差・女性管理職比率)— 2026年4月施行
- 公表済3|経産省「AIと民事責任」手引き — 2026年4月公表
- 施行済4|労働安全衛生法改正(フリーランス等の安全衛生対策等)— 2026年4月以降段階施行
- 成立済5|障害者雇用率引き上げ(2.7%)— 2026年7月施行予定
- 成立済6|カスタマーハラスメント対策義務化 — 2026年10月施行予定
- 成立済7|公益通報者保護法改正 — 2026年12月施行予定
- 法案段階8|個人情報保護法改正法案 — 2026年4月閣議決定
- 検討中9|労働基準法制の見直し動向
- 成立済10|保険業法改正 — 2026年6月1日施行予定
- 施行済11|資金決済法改正 — 2026年6月1日施行
2026年は、企業実務に大きな影響を与える法改正が特に集中しています。単なる「形式的な法令遵守」にとどまらず、価格転嫁への適切な対応・AI利用と個人情報管理・ハラスメント対応・委託先管理・サプライチェーン全体の適正化など、「実質的な企業運営」そのものが問われる時代になっています。
本記事では、現時点での状況(施行済・成立済・法案段階・検討中)を明示した上で、各改正の概要・業種別影響・企業として確認すべき事項を整理します。末尾の対応チェックリストもご活用ください。
いわゆる「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」が大幅改正され、名称が「中小受託取引適正化法(取適法)」に変更されました(令和7年法律第41号)。単なる名称変更ではなく、適用範囲・禁止行為・執行体制が大きく見直されています。
主な改正内容
- 価格据置行為(一方的な単価据置・協議拒否)への規制強化
- 手形払規制の強化(長期手形等の禁止方向)
- 運送委託が対象取引に追加
- 従業員数基準の導入(資本金逃れ対策)
- 禁止行為の追加・用語変更・執行体制強化
実務上問題になりやすい場面
- 「前年単価を維持」「値上げは認めない」等の発言
- 労務費・原材料費高騰を理由とした価格改定協議の拒否
- 手形払の継続
- 運送会社への燃料費未転嫁・附帯作業の無償要求
強く影響
影響可能性あり
- 発注フロー・単価改定協議ルールの整備
- 価格改定協議の記録保存(メール含む)
- 発注書式の見直し・契約書改訂
- 購買担当者への教育実施
- 手形払利用の有無と廃止検討
- (受注側)原価上昇資料の整備・値上げ交渉記録の保存
2025年6月11日公布の改正法により、常時雇用する労働者が101人以上の企業において、「男女間賃金差異」と「女性管理職比率」の情報公表が義務化されました(従来は301人以上が対象)。なお、法律の有効期限は2036年3月31日まで延長されています。
公表が必須となる項目(101人以上)
- 男女間賃金差異(全労働者・正規・非正規の3区分)
- 女性管理職比率(課長級以上)
- 上記2項目+任意14項目から1項目以上(計3項目以上)
初回公表のタイミング
- 2026年4月1日以降に終了する最初の事業年度から
- 3月決算企業の場合→2027年3月期が初回
- 4月決算企業の場合→2026年4月期が初回
- 翌事業年度開始後おおむね3か月以内に公表
- 常時雇用労働者数の確認(契約社員・パート含む)
- 決算期の確認(初回公表時期の特定)
- 男女別賃金データの収集・算出
- 課長級以上の女性比率の把握
- 「女性の活躍推進企業データベース」への登録準備
- (上場企業)有価証券報告書との数値整合確認
経済産業省が2026年4月9日に公表した本手引きは、AIの使われ方に応じた民事責任の考え方を整理したものです。法的拘束力はありませんが、AI利用に伴うトラブル・訴訟が増加している現状において、企業の実務対応・契約設計・リスク管理の重要な基準となります。個人情報保護法改正法案(セクション8)と合わせて確認が必要です。
AIの2類型と責任の考え方
- 補助/支援型AI:人間の判断を補助するAI。利用者が最終判断を行うため、利用者の責任が中心。
- 依拠/代替型AI:AIの判断に依存・代替させるAI。開発者・提供者の責任が重くなる方向。
利用の態様に応じて、利用者・開発者・提供者それぞれの責任の所在と範囲が異なります。
特に影響が大きい業種
- AI出力を無確認で採用した場合の利用者責任(依拠型として評価されるリスク)
- AI開発・提供企業における利用規約・免責条項の見直しの必要性
- 医療・法律・財務など専門領域でのAI利用は特に責任リスクが高い
- AI利用を委託先・外注先に任せている場合の管理責任
- AI利用に関する社内ルール・承認フローの整備の必要性
- 自社のAI利用が「補助型」か「依拠型」かを類型整理する
- AI関連契約(利用規約・業務委託契約)の責任条項を見直す
- AI利用の社内承認・確認フローを整備する
- AI出力の最終確認者・責任者を明確にする
- 委託先のAI利用状況を確認・管理する
令和7年法律第33号による改正で、従来は労働者のみを対象としていた安全衛生対策が、同じ場所で働く個人事業者・フリーランスにも拡大されます。フリーランス活用が多い業種への影響が大きいです。
なお、同じ改正法には、労働者数50人未満の事業場へのストレスチェック実施義務の拡大も含まれています。ただし、この点は2026年4月~10月施行事項とは異なり、施行期日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされています。第185回労働政策審議会安全衛生分科会では、令和10年(2028年)4月1日を施行期日とする政令案要綱等が示されていますが、正式な施行日は今後公布される政令により確定します。
主な改正内容
- 個人事業者等への安全衛生対策の推進
- ストレスチェック義務対象拡大(50人未満事業場への義務化。施行日は今後の政令で確定)
- 個人ばく露測定の制度化
- 新規化学物質の電子申請義務化
- 一部事業主への健康確保措置
特に影響が大きい業種
- 個人事業者・フリーランスが自社の事業場・現場で就業する場面を洗い出す
- 安全衛生に関する周知・教育・連絡体制を確認する
- 業務委託契約書・発注書・作業手順書に安全衛生上の役割分担が反映されているか確認する
- 化学物質・個人ばく露測定・健康確保措置が問題となる業務の有無を確認する
- 労働者数50人未満の事業場がある場合は、ストレスチェック義務化に向けた準備状況を別途確認する
民間企業の障害者法定雇用率が現行の2.5%から2.7%へ引き上げられます。また、雇用率の算定対象となる事業主の範囲も、従業員40.0人以上から37.5人以上に拡大されます(2024年4月からの段階的引き上げの継続)。
- 民間企業の法定雇用率:2.5% → 2.7%
- 対象事業主の範囲:従業員40人以上 → 37.5人以上
- 不足する場合:障害者雇用納付金の対象になる可能性
今すぐ確認したい事項
- 現在の障害者雇用人数の確認
- 2.7%達成に必要な雇用人数の算出
- 採用計画・職場環境整備の見直し
- 雇用納付金の影響試算
(改正労働施策総合推進法)
2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法〔令和7年法律第63号(労働施策総合推進法等の一部改正法)〕により、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応が事業主の「雇用管理上の措置義務」として法定化されます。企業規模にかかわらず、1人でも雇用する全事業主が対象で、猶予期間は一切ありません。2026年2月26日には指針も公布されています。
カスハラの定義(改正後労働施策総合推進法33条)
顧客・取引相手・施設利用者等による言動であって、社会通念上許容される範囲を超えたもの(「顧客等言動」)により、労働者の就業環境が害されること
典型例
- 欠陥がない商品の交換要求・土下座の強要
- 物を投げつける・唾を吐く
- 長時間にわたる執拗な叱責
- 深夜・休日の繰り返し連絡
事業主が義務として講ずべき措置
- カスハラに毅然と対応する旨の方針明確化・周知
- 対処内容の労働者への周知(管理職への報告、複数対応等)
- 相談窓口の設置・周知
- 窓口担当者が適切に対応できる体制の整備
- 事実関係の迅速・正確な確認
- 被害者への配慮措置
強く影響(顧客対応が多い業種)
影響可能性あり
- カスハラ対応方針の明文化(就業規則・社内ポータル等)
- 相談窓口の設置と周知
- 対応マニュアル・フローの作成
- 管理職・担当者への研修実施
- 記録・証拠保全体制の整備(録音等)
- エスカレーションフロー(警察対応含む)の整備
- 再発防止策の策定
(内部通報制度の実効性強化)
2025年6月11日公布の改正公益通報者保護法(令和7年法律第62号、2026年12月1日施行予定)は、内部通報制度の実効性強化と通報者保護の大幅拡充を内容とします。今回の改正は301人未満の企業にも実質的な影響があり、「うちは関係ない」という判断は禁物です。
主な改正内容
- 推定規定の新設:通報後1年以内の解雇・懲戒は、通報を理由とするものと推定(企業側が「無関係」を立証しなければならない)
- 直罰規定の新設:通報を理由とする解雇・懲戒に刑事罰(6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
- 保護対象の拡大:フリーランス(特定受託業務従事者、契約終了後1年以内の者)を追加
- 通報妨害禁止:通報をしない旨の合意等は無効
- 消費者庁の権限強化:立入検査・勧告・命令権が新設
実務上の重大な変化
特に対応が求められる
実質的な対応が必要
- 内部通報規程の見直し(フリーランス対象化)
- 調査フロー・調査担当者の確認
- 通報後の人事管理ルールの明確化(推定規定対応)
- 外部通報窓口の設置・確認
- ハラスメント相談窓口との混同防止
- 経営トップへの周知・体制整備
(AI時代への対応・課徴金制度導入)
2026年4月7日に「個人情報保護法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。AI・生成AI普及を背景に、個人保護強化とAI・統計利用の促進の両立を目的とした改正です。今後の国会審議の動向に注意が必要です。
主な改正ポイント(法案段階)
- 課徴金制度の導入(悪質違反への制裁強化)
- 生体情報規制強化(顔認証・監視カメラ等)
- AI・統計利用の規制緩和(同意不要範囲の拡大)
- 未成年者保護強化(未成年者データへの厳格な規律)
特に影響が大きい業種
- 「生成AIに顧客情報を入力してもよいか」
- 「AI学習に個人情報を使えるか」
- 「ログ解析はどこまで可能か」
- 「顔認証カメラの設置は問題ないか」
- 「委託先のAI利用をどう管理するか」
- 社内AI利用実態の棚卸し
- 個人情報マッピング(取得・利用・提供フローの確認)
- 委託先管理・クラウド契約の確認
- 顔認証カメラ等の生体情報利用状況の確認
- プライバシーポリシーの改訂準備
- 社内AI利用ルールの整備
個人情報保護法改正法案と並行して、2026年4月9日、経済産業省が「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き〔第1.0版〕」を公表しました。個情法改正への対応と合わせて確認が必要です(詳細はセクション3参照)。
(約40年ぶりとも言われる改正議論)
現時点では法案提出・成立には至っていませんが、厚生労働省「労働基準関係法制研究会」等で、約40年ぶりとも言われる大幅な見直しが検討されています。今後の動向を継続的に注視する必要があります。
現在検討されている主な論点
- 勤務間インターバル規制の義務化(終業→始業間の必須休息)
- 14日以上の連続勤務禁止
- 副業・兼業の労働時間通算ルール見直し
- 「つながらない権利」の制度化(時間外連絡の制限)
- テレワーク管理の法制化
- 週44時間特例(小規模事業場)の見直し
特に影響が大きい業種
- 勤怠管理システムの高度化(インターバル把握機能等)
- 副業申告制度の整備・運用確認
- 管理職への「つながらない権利」教育
- 業務時間外連絡ルールの整備・周知
(特定大規模乗合損害保険代理店への規制強化)
特定大規模乗合損害保険代理店と委託元保険会社の双方に対し、厳格な体制整備が新たに義務付けられました。直接の顧問先に保険代理店・保険会社がいない場合でも、複数の保険会社と取引がある事業会社(通販・不動産・医療等)は間接的な影響を受ける可能性があります。
主な改正内容
- 営業所ごとの「法令等遵守責任者」の配置義務化
- 本店での「統括責任者」の配置義務化
- 内部監査体制の整備義務
- 事業報告書の様式変更(大幅)
- 「過度な便宜供与の禁止」の対象拡大(保険契約者と「密接な関係を有する者」まで)
特に影響が大きい業種
- 自社・委託先が特定大規模乗合損害保険代理店に該当するか確認
- 法令等遵守責任者・統括責任者の配置状況の確認
- 内部監査体制の整備状況の確認
- 便宜供与の対象範囲の確認・社内周知
(電子決済手段・暗号資産仲介業の新設・為替取引の定義明確化)
資金決済法の改正により、「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」が新設されました。また、為替取引の定義が明文化され、これまでグレーゾーンとされていたクロスボーダー収納代行が正式に資金移動業の登録対象となりました。決済・送金・収納代行サービスを利用・提供する企業に広く影響します。
主な改正内容
- 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の新設
- 仲介業者が利用者に損害を与えた場合、原則として委託元(所属業者)が賠償責任を負う
- 「二以上の段階にわたる委託」を伴う国内外の資金移動が為替取引の定義に明記
- クロスボーダー収納代行が原則として資金移動業の登録対象に(一定の適用除外類型を除く)
特に影響が大きい業種
- 海外向け決済・収納代行サービスの利用有無の確認
- 利用中サービスが適用除外類型に該当するかの確認
- 仲介業者を活用している場合の委託元責任の整理
- 契約書・利用規約の見直し
主な参考資料・一次情報源(法令別)
※各資料の詳細・最新情報は各省庁の公表情報を直接ご確認ください。本記事は2026年6月3日時点の情報に基づきます。URLは確認時点のものであり、省庁サイトの改修等により変更される場合があります。
1|中小受託取引適正化法(旧・下請法) 令和7年法律第41号 公布:令和7年5月23日 施行:令和8年1月1日
2|女性活躍推進法改正 令和7年法律第63号(労働施策総合推進法等の一部改正法) 施行:令和8年4月1日
3|経産省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」 2026年4月9日 確定版公表(経済産業省)
4|労働安全衛生法改正(フリーランス等への安全衛生対策拡大) 令和7年法律第33号 施行:令和8年4月〜10月(段階的)
5|障害者雇用率引き上げ(2.7%) 施行:令和8年7月1日
6|カスタマーハラスメント対策義務化(改正労働施策総合推進法) 令和7年法律第63号(労働施策総合推進法等の一部改正法) 公布:令和7年6月11日 施行:令和8年10月1日
7|公益通報者保護法改正 令和7年法律第62号 公布:令和7年6月11日 施行予定:令和8年12月1日
8|個人情報保護法改正法案 2026年4月7日閣議決定(現在国会審議中)
9|労働基準法制の大幅見直し動向 厚生労働省研究会で検討中
10|保険業法改正 施行:令和8年6月1日
11|資金決済法改正 施行:令和8年6月1日
共通・横断的な参照先
法改正対応チェックリスト
各項目をクリックしてチェックを入れながら対応状況を確認できます。対応完了したものはチェックを入れてください。
法改正対応・社内体制整備に関するご相談
法改正への対応は、規程・契約書・社内運用・担当者教育・相談窓口・記録保存・委託先管理などを組み合わせて検討する必要があります。 自社の状況に応じた対応をご希望の場合は、個別にご相談ください。