現場責任者のための初期対応
カスハラへの対応では、現場の初期対応が非常に重要です。顧客等からの苦情や要望の中には、商品・サービスの改善につながる正当な申入れもあり、最初から「カスハラ」と決めつけて対応することは適切ではありません。一方で、暴行、脅迫、人格否定、長時間拘束、土下座要求、従業員個人への攻撃などがある場合には、現場従業員を一人で対応させ続けるべきではありません。
本シリーズは、顧問先企業等への情報提供を目的とした記事です。文中の「労働施策総合推進法」は、特に断りのない限り、令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法を指し、カスタマーハラスメント関連規定は2026年(令和8年)10月1日に施行されます。個別事案では、事実関係、業種・業態、契約関係、就業規則・社内規程、関係法令を確認したうえでご判断ください。
1 現場責任者の役割
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 事実確認 | 何が起きたのか、顧客等は何を求めているのかを確認する |
| 従業員保護 | 一次対応者を一人で抱え込ませず、必要に応じて対応を交代する |
| 対応方針の判断 | 通常の苦情対応を継続するか、カスハラ対応に切り替えるかを判断する |
| エスカレーション | 本部、人事、法務、総務、弁護士、警察等につなぐ |
| 記録化 | 後日の事実確認・再発防止・法的対応に備えて記録を残す |
2 最初から「カスハラ」と決めつけない
現場では、まず顧客等が何に不満を持っているのか、どの商品・サービス・対応が問題になっているのか、会社側にミスや説明不足がなかったか、顧客等は何を求めているのかを確認します。
3 通常の苦情対応としてまず行うこと
3-1 相手の話を遮らずに聞く
苦情対応の初期段階では、顧客等の話を途中で遮らず、まずは要望や不満の内容を確認します。
3-2 限定的なお詫びを使う
ご不快な思いをされたとのこと、申し訳ございません。まず事実関係を確認させていただきます。
これは、会社の法的責任や事実関係を認めるものではありません。
3-3 5W1Hで確認する
| 確認事項 | 例 |
|---|---|
| When | いつ発生したのか |
| Where | どこで発生したのか |
| Who | 誰が対応したのか、誰が関係しているのか |
| What | 何が起きたのか |
| Why | なぜ問題になっているのか |
| How | どのような経緯・態様だったのか |
4 現場責任者が対応を引き取るべき場面
- 一次対応者が強い精神的負担を受けている
- 顧客等が一次対応者個人を名指しして攻撃している
- 顧客等が担当者の氏名、住所、連絡先、勤務日などを求めている
- 顧客等が大声で威圧している
- 同じ要求や質問が長時間繰り返されている
- 顧客等が退去しない
- 暴力、脅迫、身体接触、性的言動がある
- SNSや口コミへの投稿をほのめかして不当な要求をしている
- 一次対応者が「もう対応できない」と申し出ている
5 対応を引き取る際の伝え方
フレーズ例
ここからは責任者である私が対応いたします。担当者個人ではなく、会社としてお話を伺います。
担当者への直接の要求には応じられません。以後は会社として私が窓口になります。
6 対応場所に注意する
対面対応では、密室で一対一になることを避ける必要があります。顧客等が興奮している場合や長時間対応が予想される場合には、周囲の目がある場所、またはすぐに他の従業員が対応できる場所で対応することが望ましいです。
7 記録を残す
| 記録事項 | 内容 |
|---|---|
| 日時 | いつ発生したか |
| 場所 | 店舗、窓口、電話、訪問先、SNS等 |
| 顧客等の情報 | 氏名、連絡先、属性、取引先名等 |
| 対応者 | 一次対応者、同席者、責任者 |
| 要求内容 | 何を求めているか |
| 言動内容 | 暴言、脅迫、要求、発言内容 |
| 会社側の説明 | 何を説明し、どこまで回答したか |
| 対応時間 | 何分・何時間対応したか |
| 証拠 | 録音、録画、メール、SNS、写真等 |
| 報告先 | 上司、本部、法務、人事、警察等 |
8 対応時間を区切る
十分に説明しても同じ要求や質問が繰り返される場合には、一定の時間を区切り、対応終了を明確に伝えることが重要です。
フレーズ例
これまでご説明した内容が、現時点での当社の回答です。同じ内容のお話が続いておりますので、本日の電話対応はあと○分で終了いたします。
9 対応を終了する
対応終了は、感情的に行うのではなく、段階を踏んで明確に伝えます。
| 段階 | 対応 |
|---|---|
| 第1段階 | 要求内容を確認し、会社として説明する |
| 第2段階 | 同じ話が繰り返されていることを伝える |
| 第3段階 | 対応終了の予告をする |
| 第4段階 | 対応終了を明確に伝える |
| 第5段階 | 退去要請、電話終了、本部報告等に進む |
10 退去を求める
対面対応で、対応終了を伝えても顧客等が退去しない場合には、退去を求める必要があります。
フレーズ例
本日の対応は終了しました。これ以上の対応はできませんので、退去してください。
退去をお願いしても応じていただけない場合、警察に通報します。
11 警察に通報する
暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動がある場合には、警察への通報をためらうべきではありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 何が起きているか | 暴言、脅迫、暴行、居座り、器物損壊等 |
| いつからか | 開始時刻、継続時間 |
| どこでか | 店舗名、住所、フロア、部屋番号等 |
| 被害状況 | けが、物損、従業員の恐怖、業務妨害 |
| 相手の情報 | 性別、人数、年齢、服装、氏名等 |
| 現在の状況 | まだ現場にいるか、立ち去ったか、再訪のおそれ |
12 本部・法務・弁護士に相談する
現場だけで判断しにくい事案は、本部・法務部門・弁護士に早めに相談すべきです。取引停止、サービス提供拒否、出入り禁止、SNS投稿対応、損害賠償請求、医療・介護・宿泊などのサービス提供義務が問題になる事案では、現場責任者が一人で判断しないことが重要です。
13 現場で使える対応フレーズ
- まず、事実関係を確認させてください。いつ、どこで、どのようなことがあったのか、順番にお伺いします。
- ご不快な思いをされたとのこと、申し訳ございません。事実関係を確認したうえで、会社として対応いたします。
- この場で直ちに判断することはできません。社内で確認したうえで、改めて回答いたします。
- 従業員個人への攻撃や人格を否定する発言はお控えください。会社として対応いたします。
- これ以上同じ内容のお話が続く場合には、本日の対応を終了いたします。
- 本日の対応は終了しました。退去をお願いします。
14 第4回のまとめ
現場責任者に求められるのは、顧客等と長時間議論を続けることではありません。正当な苦情や要望には誠実に対応しつつ、社会通念上許容される範囲を超える言動がある場合には、現場従業員を守るため、会社として対応を引き取り、必要に応じて対応終了、退去要請、警察通報、本部・法務・弁護士への相談につなげることが重要です。
主な参考資料
-
令和8年厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年2月26日公布)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf -
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/assets/pdf/cusuhara_manual.pdf - 坂東利国「カスタマーハラスメント対応マニュアル例」
本記事は、企業の法務・人事・労務担当者および経営層に向けて、一般的な情報提供を目的として作成したものです。 個別の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。 法令、政省令、指針、通達、行政資料等は今後変更・更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては、最新の官公庁資料を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。