カスタマーハラスメントの定義と判断基準
カスハラへの対応では、まず、どのような言動がカスハラに当たるのかを理解しておく必要があります。実務上は、顧客等からの苦情や要望のすべてをカスハラとして扱うことはできません。商品・サービスに関する正当な苦情や改善要望は、企業にとって重要な情報であり、誠実に対応すべきものです。
本シリーズは、顧問先企業等への情報提供を目的とした記事です。文中の「労働施策総合推進法」は、特に断りのない限り、令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法を指し、カスタマーハラスメント関連規定は2026年(令和8年)10月1日に施行されます。個別事案では、事実関係、業種・業態、契約関係、就業規則・社内規程、関係法令を確認したうえでご判断ください。
1 カスタマーハラスメントの定義
厚生労働省の指針は、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものと整理しています。
職場において行われる、①顧客等の言動であって、②労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの
この定義から分かるように、カスハラに該当するかどうかは、単に「従業員が不快に感じたか」だけで決まるものではありません。
2 すべての苦情がカスハラになるわけではない
顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われたものは、正当な申入れであり、カスハラには当たりません。
たとえば、商品に不具合があったため交換を求めること、サービス内容について説明を求めること、接客対応について改善を求めること、契約内容に沿った対応を求めることは、直ちにカスハラとはいえません。
3 「顧客等」とは誰か
「顧客等」には、顧客、取引の相手方、施設の利用者、その他事業主の行う事業に関係を有する者が含まれます。具体例として、商品の購入者・サービス利用者、問い合わせをする者、取引先の担当者、企業間の契約交渉担当者、施設・サービス利用者とその家族、施設の近隣住民などが挙げられます。
したがって、カスハラはBtoC企業だけの問題ではありません。BtoB取引でも、取引先担当者からの暴言、過度な要求、長時間拘束、人格否定、性的言動などがあれば、カスハラの問題になり得ます。
4 「職場」とはどこか
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指します。通常就業している場所以外でも、取引先の事務所、顧客の自宅、打合せ先の飲食店など、労働者が業務を遂行する場所であれば職場に含まれます。
また、カスハラは対面で行われるものに限られず、電話、メール、SNS、チャットなどで行われるものも含まれます。
5 「労働者」とは誰か
カスハラ対策の対象となる「労働者」は、正社員だけではありません。パートタイム労働者、契約社員、アルバイトなどの非正規雇用労働者も含まれます。派遣労働者については、派遣元だけでなく派遣先も必要な措置を講じる必要があります。
6 判断基準の中心は「社会通念上許容される範囲を超えるか」
カスハラ該当性の判断で中心となるのは、顧客等の言動が、労働者の従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えるかという点です。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 要求内容の相当性 | そもそも求めている内容が妥当か |
| 手段・態様の相当性 | 要求の伝え方、態度、頻度、方法が妥当か |
要求内容が不当であれば、穏当な言い方であってもカスハラになり得ます。他方で、要求内容に一定の理由があっても、暴力、脅迫、土下座要求、長時間拘束、人格否定などの手段・態様が用いられれば、カスハラになり得ます。
7 要求内容が社会通念上許容される範囲を超える場合
要求内容が問題となる例としては、次のようなものがあります。
- そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求
- 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求
- 契約内容を著しく超えたサービス提供要求
- 対応が著しく困難、または対応が不可能な要求
- 契約金額の著しい減額要求
- 商品やサービス等の内容と無関係な不当な損害賠償要求
8 手段・態様が社会通念上許容される範囲を超える場合
| 類型 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的攻撃 | 殴る、蹴る、叩く、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける |
| 精神的攻撃 | 脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要 |
| SNS等による攻撃 | 悪評投稿をほのめかして脅す、従業員のプライバシー情報を投稿する |
| 人格否定・差別的言動 | 労働者の人格を否定する発言、性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的言動 |
| 撮影・盗撮 | 盗撮、無断撮影 |
| 威圧的言動 | 大声で労働者や周囲を威圧する、反社会的言動を行う |
| 継続的・執拗な言動 | 同じ質問を執拗に繰り返す、話のすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立て |
| 拘束的言動 | 長時間の居座り、長時間電話での拘束 |
(注)SNS等による攻撃・人格否定・撮影等は、指針上はいずれも「精神的攻撃」に含まれる例示です。本表は理解のために細分化しています。
9 「就業環境が害される」とは何か
「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
判断は、被害を受けた従業員の主観だけで決まるものではなく、同様の状況で社会一般の労働者が看過できない程度の支障が生じたと感じるかという「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。
10 判断にあたって考慮すべき事情
- 顧客等の言動の目的
- 言動を受けた労働者側の問題行動の有無・内容・程度
- 言動が行われた経緯や状況
- 業種・業態
- 業務の内容・性質
- 言動の態様
- 言動の頻度・継続性
- 労働者の属性や心身の状況
- 行為者との関係性
11 企業側の対応に問題がある場合
顧客等から強い苦情を受けた場合には、商品・サービスに瑕疵や問題がなかったか、説明不足がなかったか、担当者の対応が不誠実でなかったか、たらい回しになっていなかったかなどを確認する必要があります。
もっとも、企業側に一定の落ち度があれば、顧客等が何をしても許されるということではありません。
12 障害者差別解消法・業法上のサービス提供義務等との関係
障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨を表明すること自体は、カスハラには当たりません。合理的配慮の申出については、まず内容を丁寧に確認し、過重な負担に当たるかどうかを検討する必要があります。
また、医療、介護、福祉、公共交通、宿泊、教育、公共サービスなどでは、サービス提供義務や利用者保護の要請が問題となることがあります。これらの業種では、一般的な接客業より慎重な判断が必要になる場合があります。
13 実務上の判断フロー
| ステップ | 確認事項 |
|---|---|
| 1 | 相手は顧客等に当たるか |
| 2 | 場面は職場または業務遂行場所に当たるか |
| 3 | 要求内容は妥当か |
| 4 | 要求を実現する手段・態様は相当か |
| 5 | 業務の性質や業種・業態から見て、どこまで対応すべきか |
| 6 | 従業員の就業環境に看過できない程度の支障が生じているか |
| 7 | 障害者差別解消法、業法上のサービス提供義務等に留意すべき事情があるか |
| 8 | 会社側の説明不足や不適切対応が原因・背景にないか |
| 9 | 上司・本部・法務・警察・弁護士にエスカレーションすべきか |
14 第2回のまとめ
カスハラは、単に顧客等が不満を述べることではありません。正当な苦情・要望には誠実に対応しつつ、要求内容や手段・態様が社会通念上許容される範囲を超える場合には、会社として従業員を守る対応に切り替えることが重要です。
主な参考資料
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令和8年厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年2月26日公布)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf -
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/assets/pdf/cusuhara_manual.pdf
本記事は、企業の法務・人事・労務担当者および経営層に向けて、一般的な情報提供を目的として作成したものです。 個別の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。 法令、政省令、指針、通達、行政資料等は今後変更・更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては、最新の官公庁資料を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。