企業のカスハラ対策⑥
実務Q&A
これまでの連載では、法改正の概要、定義と判断基準、社内体制の整備、現場での初期対応、悪質事案への法的対応を整理してきました。最終回では、経営幹部、人事・労務担当者、法務担当者、顧客対応の現場責任者が実務上迷いやすい点をQ&A形式で整理します。
本シリーズの位置づけ
本シリーズは、顧問先企業等への情報提供を目的とした記事です。文中の「労働施策総合推進法」は、特に断りのない限り、令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法を指し、カスタマーハラスメント関連規定は2026年(令和8年)10月1日に施行されます。個別事案では、事実関係、業種・業態、契約関係、就業規則・社内規程、関係法令を確認したうえでご判断ください。
本シリーズは、顧問先企業等への情報提供を目的とした記事です。文中の「労働施策総合推進法」は、特に断りのない限り、令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法を指し、カスタマーハラスメント関連規定は2026年(令和8年)10月1日に施行されます。個別事案では、事実関係、業種・業態、契約関係、就業規則・社内規程、関係法令を確認したうえでご判断ください。
実務Q&A(Q1〜Q26)
Q1 カスハラ対策は、なぜ経営課題として取り組む必要があるのでしょうか。
カスハラ対策は、単なるクレーム対応や接客マナーの問題ではありません。従業員の意欲低下、職場環境の悪化、健康状態の悪化、休職・退職、これらに伴う経営的損失につながり得るため、経営リスクとして捉える必要があります。
Q2 企業は、まず何から始めるべきですか。
まず、経営層が会社として従業員を守る基本方針を明確にすることです。そのうえで、カスハラ対応方針・社内規程、相談窓口、現場対応マニュアル、悪質事案へのエスカレーション基準、研修、記録化・再発防止の仕組みを整備します。
Q3 「お客様を大切にする姿勢」と「カスハラには毅然と対応する姿勢」は矛盾しませんか。
矛盾しません。正当な苦情には誠実に対応し、商品・サービスや接客対応に改善点があれば改善する。他方で、暴行、脅迫、人格否定、土下座要求、長時間拘束、従業員個人への攻撃などには、従業員保護の観点から毅然と対応する、という整理が重要です。
Q4 会社側にミスがある場合でも、カスハラとして対応できますか。
できます。ただし、会社側の問題と顧客等の言動の問題を分けて考える必要があります。会社側に一定の落ち度がある場合でも、暴力、脅迫、人格否定、土下座要求、長時間拘束、従業員個人への攻撃、SNSでの個人情報投稿などが許されるわけではありません。
Q5 BtoB取引でもカスハラは問題になりますか。
問題になります。「顧客等」には、一般消費者だけでなく、取引先担当者、企業間で契約締結に向けた交渉を行う担当者なども含まれます。重要な取引先の担当者からの暴言、人格否定、過度な要求、長時間拘束、性的言動なども、カスハラとして問題になり得ます。
Q6 自社の従業員が取引先の従業員にカスハラをした場合も、会社として対応が必要ですか。
必要です。企業は、自社がカスハラ被害を受ける場面だけでなく、自社の役員・管理職・従業員が取引先等の従業員にカスハラを行う場面も想定する必要があります。
Q7 既存のハラスメント相談窓口で対応すれば足りますか。
既存のハラスメント相談窓口と一体的に設置することは可能です。ただし、カスハラは店頭、電話、窓口、訪問先などで今まさに顧客対応が進行している場合があります。そのため、現場責任者、本部、人事、法務、総務、警察、弁護士につなぐ即時対応ルートが必要です。
Q8 相談窓口は、どのような事案まで受け付けるべきでしょうか。
明らかなカスハラだけでなく、カスハラに該当するか判断に迷う事案も受け付けるべきです。「迷ったら相談」「困ったら報告」「一人で抱え込まない」という運用を明確にしておくことが重要です。
Q9 派遣社員やパート、有期契約社員も対象になりますか。
対象になります。カスハラ対策の対象となる労働者には、正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員も含まれます。相談窓口や現場報告ルールは、雇用区分にかかわらず周知する必要があります。
Q10 カスハラ相談をした従業員に不利益な取扱いをしてはいけない、とはどういう意味ですか。
カスハラ被害を相談したこと、事実確認に協力したことなどを理由として、解雇、雇止め、降格、減給、不利益な配置転換、不利益な評価、シフト削減などをしてはならないという意味です。
Q11 事実確認では、何を確認すべきでしょうか。
いつ、どこで、誰が、誰に対して、何を、どのように行ったのかを確認します。そのうえで、要求内容、言動の態様、頻度、継続性、会社側の対応、会社側に落ち度があるか、録音・録画・メール・SNS投稿などの客観資料を確認します。
Q12 録音・録画をしてもよいのでしょうか。
カスハラ対応では、録音・録画は事実確認や再発防止のために有用です。ただし、録音・録画データには個人情報が含まれることがあります。そのため、保存場所、アクセス権限、保存期間、利用目的、外部提供の可否などを社内ルールとして定める必要があります。
Q13 被害を受けた従業員には、どのような配慮が必要ですか。
事案の内容に応じて、担当者を交代する、顧客等から引き離す、複数名で対応する、管理職が対応を引き取る、休養を認める、産業医・カウンセラー等につなぐ、メンタルヘルス相談の機会を設けるなどの対応が考えられます。
Q14 現場責任者は、相談や報告を受けたら最初に何をすべきですか。
まず従業員の安全確保を優先し、必要に応じて対応を交代します。そのうえで、顧客等の主張・要求内容、会社側の説明や対応状況、対応時間、暴言・脅迫・身体接触の有無、録音・録画・メール・SNS投稿等の証拠の有無を確認します。
Q15 現場で「これはカスハラです」と断定してよいのでしょうか。
明らかな暴力、脅迫、土下座の強要、性的要求、従業員の個人情報の投稿などは、早期にカスハラとして対応しやすい事案です。一方で、判断に迷う事案では、まず事実を確認し、記録を残し、対応者を一人にせず、上司や本部に相談することが重要です。
Q16 長時間の電話や居座りには、どのように対応すべきでしょうか。
十分に説明しても同じ要求や質問が繰り返される場合には、一定の時間を区切り、対応終了を明確に伝えることが重要です。いきなり電話を切るのではなく、予告したうえで、記録を残して対応終了するのが望ましいです。
Q17 退去要請や出入り禁止はできますか。
状況によっては可能です。ただし、医療、福祉、宿泊、公共性の高いサービスなど、法令上・契約上のサービス提供義務や配慮義務が問題となる業種では、慎重に検討する必要があります。
Q18 警察には、どの段階で通報すべきでしょうか。
暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動がある場合には、警察への通報をためらうべきではありません。現に危険が進行している場合には110番通報を検討し、緊急性は高くないが対応が必要な場合には、所轄警察署や警察相談専用電話「#9110」への相談も選択肢になります。
Q19 顧客等から「SNSに書くぞ」「口コミに実名を書くぞ」と言われた場合、どう対応すべきでしょうか。
まず、発言内容、日時、相手、対応者を記録します。可能であれば、録音・録画、メール、メッセージ、投稿画面のスクリーンショットなどを保存します。現場担当者が個人で反論したり、感情的にやり取りしたりするのではなく、会社として対応窓口を一本化し、必要に応じて法務部門や弁護士に相談します。
Q20 謝罪文や念書、土下座を求められた場合はどうすべきでしょうか。
原則として、その場で応じるべきではありません。事実確認前に謝罪文や念書を作成すると、会社の責任や事実関係を認めたものと受け取られるおそれがあります。
Q21 限定的なお詫びはしてよいのでしょうか。
してよい場合があります。苦情対応の初期段階では、事実関係や法的責任を認める前に、相手が不快に感じたことへの配慮として、限定的なお詫びをすることがあります。ただし、事実確認前に責任を認める表現は避けるべきです。
Q22 障害のある顧客等からの要望は、カスハラとして扱ってよいのでしょうか。
障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨を表明すること自体は、カスハラには当たりません。もっとも、合理的配慮の申出であっても、その手段・態様が暴力、脅迫、人格否定、長時間拘束などに及ぶ場合には、別途、従業員の安全確保や就業環境保護の観点から対応が必要です。
Q23 顧客等が認知症や疾病、精神的な不調を抱えている可能性がある場合は、どう考えるべきでしょうか。
まず、言動の背景に疾病、障害、認知症、精神的な不調などがある可能性を踏まえ、機械的に「悪質」と決めつけない姿勢が必要です。一方で、理由や背景がある場合でも、従業員の安全を確保する必要がなくなるわけではありません。
Q24 社内研修では、誰に何を教えるべきでしょうか。
経営層には、カスハラ対策が法的義務、安全配慮義務、人材確保、企業価値に関わる経営課題であることを理解してもらう必要があります。管理職・現場責任者には初期対応、報告を受けた際の判断、対応交代、事実確認、被害者配慮、警察・弁護士への相談基準を教育します。現場従業員には、正当な苦情とカスハラの違い、限定的なお詫び、5W1Hによる確認、記録、上司への報告、一人で抱え込まないことを教育します。
Q25 カスハラが発生した後、再発防止として何をすべきでしょうか。
事案の記録を整理し、原因を分析し、同種事案に備えた改善を行います。基本方針や対応ルールの再周知、現場マニュアルの見直し、相談窓口・報告ルートの見直し、研修の追加実施、商品・サービス・説明方法・接客対応の改善などを検討します。
Q26 カスハラ対策マニュアルを作れば、それで十分でしょうか。
十分ではありません。マニュアルは重要ですが、実際に機能させるには、経営層の方針表明、現場への周知、管理職研修、相談・報告体制、記録化、事案後の振り返りが必要です。
第6回のまとめ
カスハラ対策では、経営層、人事・労務担当者、法務担当者、現場責任者、相談窓口担当者が、それぞれの役割を理解しておく必要があります。
正当な申入れには誠実に対応しながら、社会通念上許容される範囲を超える言動から従業員を守り、企業として合理的で一貫した対応を行うことが重要です。
主な参考資料
-
厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html -
令和8年厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年2月26日公布)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf -
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/assets/pdf/cusuhara_manual.pdf - 坂東利国「カスタマーハラスメント対応マニュアル例」
- 坂東利国「カスタマーハラスメント研修資料」
免責事項
本記事は、企業の法務・人事・労務担当者および経営層に向けて、一般的な情報提供を目的として作成したものです。 個別の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。 法令、政省令、指針、通達、行政資料等は今後変更・更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては、最新の官公庁資料を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。
本記事は、企業の法務・人事・労務担当者および経営層に向けて、一般的な情報提供を目的として作成したものです。 個別の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。 法令、政省令、指針、通達、行政資料等は今後変更・更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては、最新の官公庁資料を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。