「個人情報保護実務検定 公式テキスト」(マイナビ出版)を上梓

「個人情報保護実務検定 公式テキスト」(マイナビ出版)を上梓しました。

ISBN-10 ‏ : ‎ 4839986010
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4839986018

【本書の概要】

【内容紹介】
「課題Ⅰ 個人情報保護法の理解」「課題Ⅱ 個人情報保護の対策と情報セキュリティ」の2 つの分野から構成され、個人情報保護法の理解を「第Ⅰ課題」に、個人情報保護法で、情報セキュリティの見地から個人データの安全管理措置を要求(同法23条)しているため、個人情報保護の対策と情報セキュリティを「第Ⅱ課題」として解説しています。
 また、試験対策としてだけでなく、本書では、改正法に対応した法令及びガイドラインの解説を充実させているため、個人情報の正しい取り扱いと安全管理措置(情報セキュリティ)の知識を深め、個人情報の安全且つ適切な取り扱いについても学ぶことができます。

【改正法】2022年4月に施行される成年年齢の改正(民法)について

改正の概要

2022年(令和4年)4月に施行される改正民法により、成年年齢がそれまでの20歳から18歳に引き下げられます(改正後民法4条)。
改正民法が施行(適用)されるのは、2022年4月1日からです。
これにより、2022年4月1日の時点で18歳以上20歳未満の人、つまり2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれまでの人は、2022年4月1日に成年に達することになります。
2022年4月2日生まれ以降の人は、18歳の誕生日になったら成年に達することになります。
成人式については、法律による決まりがないため、各自治体の判断で実施されるようです。


なお、女性の婚姻開始年齢は、これまでは16歳でしたが、今回の民法改正により、18歳に引き上げられました(改正後民法731条)。
女性の婚姻年齢を引き上げたのは、高校等への進学率が98%を超えるまでになった社会状況等に照らし、婚姻をするには18歳程度の社会的・経済的成熟が必要であると考られるに至ったからです。
なお、2022年4月1日の時点で既に16歳以上の女性は、引き続き18歳未満でも結構することができるとされています。

民法改正の影響

成年年齢が引き下げられるのは民法上のことです。
民法では、「未成年者」には、次の規定が適用されるので、民法改正により、次の規定の適用が影響を受けます。

  • 未成年者が法律行為をするには、原則として、その法定代理人の同意を得なければならず、違反する法律行為は取り消すことができる(民法5条1項・2項)。
  • 未成年者は、父母の親権に服する(民法818条1項)。

法律行為

2022年4月1日以降は、18歳になれば、法定代理人(父母など)の同意を得ずに一人で有効な法律行為をすることができます。
つまり、4月1日以降は、18歳、19歳であっても、親の同意を得ずに、携帯電話の購入、アパートを借りる、クレジットカードを作成する、ローンを組んで自動車を購入するといった様々な契約をすることができるようになり、後になって契約を取り消すことができなくなるので、注意が必要です。
この点については政府も注意喚起をしていて、全国共通の3桁の電話番号である消費者ホットライン188の周知や相談窓口の充実など、様々な環境整備の施策に取り組んでいます。
なお、2022年4月1日よりも前は、18歳、19歳の人は「未成年者」なので、4月1日より前に法定代理人(父母など)の同意を得ないで締結した契約は、4月1日以後も取り消すことができます。


【労基法による年少者(18歳未満の者)の保護】

労働基準法には、18歳未満の「年少者」を雇用する場合に、主に以下の規制があり、高校生をアルバイト雇用する場合などに注意が必要です。

  • 事業場には、満18歳未満の者について、その年齢を証明する年齢証明書等(住民票記載事項証明書等)を備えつけなければならない(労基法57条1項)。労基法57条違反の罰則は、30万円以下の罰金です(労基法120条)。
  • 労働契約は本人自身と締結しなければならず、親権者または後見人が未成年者に代わって労働契約を締結してはならない(労基法58条1項)。労基法58条違反の罰則は、30万円以下の罰金です(労基法120条)。
  • 親権者・後見人または所轄労基署長は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合、将来に向かって労働契約を解除することができる(労基法58条2項)。
  • 未成年者は、独立して賃金を請求することでき、親権者または後見人は未成年の賃金を代わって受け取ってはならない(労基法59条)。労基法59条違反の罰則は、30万円以下の罰金です(労基法120条)。
  • 18歳未満の者は、原則として、時間外・休日労働を行わせることができず(労基法60条1項。例外は労基法60条3項1号)、変形労働時間制、フレックスタイム制のもとで労働させることもできない(労基法60条1項。例外は労基法60条3項2号)。18歳未満の者を時間外労働・休日労働させた場合は、労基法32条(法定労働時間)または35条(法定休日)の違反となり、罰則は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です(労基法119条)。
  • 18歳未満の者は、原則として、深夜時間帯(午後10時から翌日午前5時)に労働させることはできない(労基法61条1項。例外は労基法61条3項)。労基法61条違反の罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です(労基法119条)。

 

親権

18歳、19歳であっても、父母の親権に服さなくなるので、自分の住む場所(居所)を自分の意思で決めたり、進学や就職などの進路を自分の意思で決めることができるようになります。

利用規約等の規定の確認

未成年者が対象となりうるサービスを運営している事業者の場合、利用規約や約款、契約書等のチェックが必要です。
例えば、「20歳未満の未成年者は、保護者が本規約に同意された場合のみ、本サービスをご利用頂くことができます。20歳未満の方が本サービスを利用した場合、保護者の同意があったものとみなします。」という規定がある場合、「18歳」や単に「未成年者」に修正して2022年4月1日から適用できるように準備しておく必要があります。
なお、2022年から18歳、19歳でも単独で契約を締結できるとしても、悪徳商法などによる消費者被害の拡大が懸念されていることから、契約内容等について、わかりやすく、十分に説明するべきであるといえます。十分な説明がなされていないと思われてしまう場合、悪徳業者として企業の評価が下がるなどのレピュテーションリスクが懸念されます。

パスポート、国家資格

パスポートは、未成年者は5年有効パスポートのみ申請可能で、10年パスポートは申請できず、また、未成年者がパスポートを申請するためには「法定代理人」(親権者など)の署名が必要とされています。
民法改正により、18歳、19歳であっても、10年有効パスポートの取得を一人で行うことができるようになります。
このほか、医師、司法書士、行政書士、公認会計士などの国家資格は、未成年者では職に就くことができないと定められているので、試験等に合格するなどの必要はありますが、18歳になれば、その職に就くことができるようになります。

飲酒・喫煙などの年齢制限(影響なし)

飲酒や喫煙については、民法とは別の法律で、20歳未満の者には認められていないので、今までどおり、20歳の年齢制限が維持されるので、注意が必要です。
「公営競技」(競馬,競輪,オートレース,モーターボート競走)の年齢制限も20歳のまま維持されます。

養育費

子を監護しない父母は子を監護する父母に対して養育費を支払う必要があるとされていますが、「未成年の間」は養育費を支払わなければならないと定めた法律はありません。
ですから、子が成年に達していても、「未成熟子」(大学に進学しているなど経済的に自立することが期待できない場合)には養育費を支払うことを要すると解されています。
このため、民法改正によって養育費は18歳まで支払えばよくなるなどということはなく、これまで通りの取扱い(未成熟子がいる場合に養育費を支払う)となります。
なお、養育費支払いの合意については、「子が成年に達するまで」と定めるケースが多かったと思いますが、合意時点で成年が20歳であったのであれば、2022年4月1日以降も、合意当時の成年である20歳までと解釈されることになるでしょう。
これに対し、2022年4月1日以降の合意で「成年に達するまで」と定めると、18歳に達するまでということになってしいます。
実際には、弁護士が合意書を作成する場合は、子が大学進学することが予想される多くの事例で「22歳に達した後の3月まで」というように定めて、未成熟子が想定される期間は養育費が支払われるようにしています。

選挙権(改正済み)

選挙権については、既に2015年の公職選挙法等の改正により、それまでの「満20歳以上」から「満18歳以上」に引き下げられています。

【改正法】電子メール等による労働条件の明示(2019年4月施行・労働基準法)

改正の概要

2019年(平成31年)4月に施行された労働基準法施行規則により、重要な労働条件の書面等の交付等による明示(労基法15条)について、FAX・メール・SNS等でもできるようになりました(労基法施行規則5条4項)。

ここでは、改正の概要と注意点について説明します。

基本:労働契約の締結に際しての労働条件の明示

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされています(労基法15条)。
これは、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止するためです。
明示すべき事項については、書面の交付等により明示しなければならない事項と、口頭の明示でもよい事項があります。

書面の交付等により明示しなければならない事項

以下の事項は、重要な労働条件であるため、書面等の交付等による明示が義務付けられています(労基法15条1項・労基則5条1項・3項)。

  • 労働契約の期間(労基則5条1項1号)
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項 (同1号の2)
  • 就業の場所および従事すべき業務の内容(同1号の3)
  • 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合における就業時転換に関する事項(同2号)
  • 賃金(退職手当及び賞与などを除く)の決定、計算、支払の方法、賃金の締切り、支払の時期に関する事項(同3号)
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)(4号) 

口頭の明示でもよい事項

以下の事項は、口頭の明示でもよいとされています(労基法15条1項・労基則5条1項・3項)。
なお、昇給に関する事項以外の事項は、これに関する定めをしていない場合は明示しなくてよいとされています(労基則5条1項但書)。

  • 昇給に関する事項(労基則5条3項)
  • 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払の時期に関する事項(労基則5条1項4号の2)
  • 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与などに関する事項(同5号)
  • 労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項(同6号)
  • 安全および衛生に関する事項(同7号)
  • 職業訓練に関する事項(同8号)
  • 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項(同9号)
  • 表彰および制裁に関する事項(同10号)
  • 休職に関する事項(同11号) 

なお、労働契約法は、労働者および使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとすると定めています(同法4条2項)。
ですので、労基法で口頭の明示でもよいとされている事項についても、書面の口頭により明示しなければならない事項と合わせて書面等で明示することが望ましいことは言うまでもありません。

書面等による労働条件の明示の方法

前述した書面等による明示を要する事項については、原則として、書面の交付による明示が必要です。
ただし、2019年4月に施行された改正労基法施行規則により、当該労働者が以下のいずれかの方法によることを希望した場合には、その方法で行うことができるようになりました(労基法施行規則5条4項)。

  • ファクシミリを利用してする送信の方法
  • 電子メール等、受信者を特定して情報伝達するために用いられる電気通信の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)

「電子メール等」は、 Eメールや、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービス、 LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能 等が含まれるとされています(H30.12.28基発1228第15号)。
これに対し、労働者が開設するブログやホームページへの書き込みによる等、第三者に閲覧させることに付随して第三者が特定個人に情報を伝達することができる機能が提供されるにすぎないものは含まれないとされています(同)。


また、電子メール等による送信の方法を労働者が「希望」した場合については、労基法15条による労働条件明示の趣旨が労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止することにあることに鑑みて、労使双方において、労働者が希望したか否かについて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましいとされています(同)。ですので、使用者側が一方的にメール等の送信を行うのでは書面等の明示として認められません。
使用者としては、書面以外の方法で労働条件を明示することについて説明し、労働者の希望を確認することが必要となります。

また、労働条件の明示をめぐる紛争の未然防止等の観点から、メールやSNSで労働条件を明示する場合は、労働条件通知書をメール等に添付して送信する等、印刷や保存がしやすい方法とすることが望ましいとされています(同)。
メール本文に記載するだけでは明示と認められないわけではありませんが、後で「明示されていない」と労働者が言ってきた場合のリスクを考えても、労働条件通知書のpdfをメールに添付するなどした方が無難といえます。

メール等によって労働条件を明示する場合は、これらの点に気を付けて行う必要があります。

パートタイム・有期雇用労働法による明示義務

労働基準法15条は労働者を雇用する場合全般に適用される規定ですが、パートタイム・有期雇用労働法は、パート労働者や有期契約社員(短時間労働者や有期雇用労働者)を雇い入れたときには、労働基準法が定める明示事項のほかに、以下の事項を、書面の交付等の方法により、速やかに明示しなければならないと定めています(パートタイム・有期雇用労働法6条・同法施行規則2条)。

  • 昇給の有無(同法施行規則2条1項1号)
  • 退職手当の有無(同2号)
  • 賞与の有無(同3号)
  • 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口(同4号)

これらの事項についても、2019年4月に施行された改正パートタイム・有期雇用労働法施行規則により、労働基準法15条の書面等による明示の場合と同じように、当該労働者が以下のいずれかの方法によることを希望した場合には、FAXその方法で行うことができるようになっています(パートタイム・有期雇用労働法施行規則2条3項)。

  • ファクシミリを利用してする送信の方法
  • 電子メール等、受信者を特定して情報伝達するために用いられる電気通信の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る)