社内体制・相談窓口・マニュアル整備
第1回では法改正の概要を、第2回ではカスハラの定義と判断基準を整理しました。今回は、企業が実際に整備すべき社内体制、相談窓口、対応マニュアル、研修、事後対応について整理します。
本シリーズは、顧問先企業等への情報提供を目的とした記事です。文中の「労働施策総合推進法」は、特に断りのない限り、令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法を指し、カスタマーハラスメント関連規定は2026年(令和8年)10月1日に施行されます。個別事案では、事実関係、業種・業態、契約関係、就業規則・社内規程、関係法令を確認したうえでご判断ください。
1 カスハラ対策は「体制整備」の問題である
カスハラ対策というと、現場で顧客等にどのように対応するかという点に関心が向きがちです。しかし、カスハラ対策を現場従業員の対応力だけに委ねることは適切ではありません。
| 整備事項 | 内容 |
|---|---|
| 基本方針 | カスハラには毅然と対応し、従業員を守る方針を明確にする |
| 相談窓口 | 従業員が相談・報告できる窓口とルートを定める |
| 現場対応手順 | 初期対応、対応交代、対応終了、退去要請等を定める |
| エスカレーション | 現場、本部、法務、人事、総務、弁護士、警察の連携を定める |
| 事後対応 | 事実確認、被害者配慮、再発防止を行う |
| 悪質事案対応 | 警察通報、警告書、出入り禁止、法的措置等の方針を定める |
| 研修 | 経営層、管理職、現場従業員、相談担当者向けに教育する |
| プライバシー・不利益取扱い禁止 | 相談者等を保護するルールを整備する |
2 基本方針を定める
最初に整備すべきなのは、カスハラに対する会社の基本方針です。基本方針では、正当な苦情・要望には誠実に対応すること、社会通念上許容される範囲を超える言動には毅然と対応すること、会社は従業員の安全と尊厳を守ること、従業員が一人で抱え込まず相談・報告すべきことを明確にします。
基本方針の文例
当社は、お客様・取引先・施設利用者その他当社の事業に関係する方々からのご意見・ご要望を真摯に受け止め、商品・サービスの改善に努めます。他方で、暴行、脅迫、暴言、人格否定、長時間拘束、過度な要求、従業員個人への攻撃など、社会通念上許容される範囲を超える言動に対しては、従業員の安全と尊厳を守るため、組織として毅然と対応します。
3 相談窓口を整備する
相談窓口は「後から相談を受ける窓口」としてだけでなく、現場責任者・本部・法務・人事・総務と連携して、実際の対応を支援できる仕組みにする必要があります。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 相談受付 | 従業員からの相談・報告を受ける |
| 初期判断 | カスハラのおそれがあるか、緊急対応が必要かを判断する |
| 事実確認 | 相談者、周囲の従業員、録音・録画、メール、SNS投稿等を確認する |
| 関係部門連携 | 現場責任者、人事、法務、総務、本部と連携する |
| 被害者フォロー | 担当交代、休養、メンタルヘルス相談等につなぐ |
| 外部連携 | 弁護士、警察、産業医、カウンセラー等と連携する |
| 記録管理 | 相談内容・対応経過・再発防止策を記録する |
4 組織体制を設計する
カスハラ対策では、現場従業員、現場責任者、相談窓口、本部、法務・人事・総務、経営層、外部専門家の役割を整理しておくことが重要です。
| 役割 | 主な担当 |
|---|---|
| 基本方針の決定 | 経営層 |
| 社内規程・マニュアル整備 | 人事・法務・総務 |
| 現場初期対応 | 一次対応者・現場責任者 |
| 対応引取り・現場判断 | 店長、施設長、支店長、管理職 |
| 相談受付・事実確認 | 相談窓口、人事、関係部門 |
| 悪質事案対応 | 法務、総務、経営層、弁護士 |
| 警察対応 | 現場責任者、総務、法務 |
| メンタルヘルス対応 | 人事、産業医、カウンセラー |
| 再発防止 | 対策推進チーム、関係部門 |
5 対応マニュアルを整備する
カスハラ対応マニュアルには、基本方針、カスハラの定義、正当な苦情との区別、初期対応の手順、限定的謝罪、事実確認、記録、対応交代、対応終了、退去要請、警察通報、相談窓口への報告、被害者配慮、SNS対応、プライバシー保護、不利益取扱い禁止、再発防止などを定めます。
| 段階 | 対応内容 |
|---|---|
| 通常の苦情対応 | 傾聴、事実確認、要求内容の特定、限定的謝罪、社内確認 |
| カスハラのおそれ | 上司報告、複数対応、記録化、対応時間の設定 |
| カスハラと判断 | 対応交代、対応終了、被害者保護、本部報告 |
| 悪質事案 | 警察通報、弁護士相談、警告書、出入り禁止、法的措置 |
6 現場対応のエスカレーションを定める
現場だけで判断しにくい事案は、本部・法務・弁護士・警察につなぐ必要があります。
| 事案 | エスカレーション先 |
|---|---|
| 長時間対応・繰り返し要求 | 現場責任者、上司、本部 |
| 従業員個人への攻撃 | 現場責任者、人事、法務 |
| SNS投稿・口コミでの脅し | 法務、広報、弁護士 |
| 暴行・脅迫・器物損壊のおそれ | 警察、総務、法務 |
| 土下座要求・謝罪文強要 | 現場責任者、法務、弁護士 |
| 出入り禁止・取引停止検討 | 経営層、法務、弁護士 |
| メンタルヘルス不調 | 人事、産業医、カウンセラー |
7 記録・証拠保全のルールを定める
記録すべき事項としては、日時、場所、顧客等の氏名・連絡先・属性、対応した従業員、同席者・目撃者、顧客等の要求内容、具体的言動、会社側の説明内容、対応時間、録音・録画・メール・SNS等の有無、上司・本部への報告内容、その後の対応方針などがあります。
8 事後対応を定める
カスハラに関する相談があった場合、会社は、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。被害者への配慮措置としては、顧客対応を交代する、以後の対応を上司・本部に一本化する、顧客等との接触を避ける、複数名対応にする、必要に応じて休養を認める、産業医・カウンセラーにつなぐなどが考えられます。
9 悪質事案への抑止措置を定める
特に悪質な事案への対処例としては、警察通報、警告文の発出、法令の制限内での商品販売・サービス提供拒否、店舗・施設への出入り禁止、民事保全法に基づく仮処分命令の申立てなどがあります。
10 プライバシー保護と不利益取扱い禁止
相談者や関係者のプライバシーを保護するため、相談記録へのアクセス権限を限定し、相談内容を不用意に共有しないことが必要です。また、相談したことを理由とする不利益取扱いを禁止し、就業規則、ハラスメント規程、カスハラ対応規程等に明記すべきです。
11 研修を実施する
研修は、経営層、管理職・現場責任者、現場従業員、相談窓口担当者に分けて実施することが望ましいです。マニュアルを作成しても、従業員が内容を知らなければ機能しません。
12 第3回のまとめ
カスハラ対策は、現場従業員の対応力だけで解決する問題ではありません。基本方針、相談窓口、現場対応マニュアル、エスカレーションルール、記録・証拠保全、事後対応、再発防止、研修を一体的に整備することが求められます。
主な参考資料
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厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html -
令和8年厚生労働省告示第51号「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年2月26日公布)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf -
厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/assets/pdf/cusuhara_manual.pdf
本記事は、企業の法務・人事・労務担当者および経営層に向けて、一般的な情報提供を目的として作成したものです。 個別の事案に対する法的助言を目的とするものではありません。 法令、政省令、指針、通達、行政資料等は今後変更・更新される可能性がありますので、実際の対応にあたっては、最新の官公庁資料を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家にご相談ください。